「うちは門前だから安泰」と言えなくなる日

コンサルタントとして医療機関の経営に関わっていると、ときどきこういう話題が出ます。

「この病院、10年後も今の形で残っているだろうか」

不謹慎な話ではありません。国の政策として、病院の再編・集約化が本格的に動き出しているからです。その根拠になっているのが地域医療構想です。

薬剤師のあいだでは「地域医療構想=病院の話」という認識が強いように感じます。ぼく自身、薬剤師として現場にいたころは、そんな言葉すら意識していませんでした笑。

でも、はっきり言います。これは薬局の話でもあります。特に門前薬局にとっては、経営の根幹に関わる話です。

今日は、2026年(令和8年)3月にまとまった新しい地域医療構想のガイドラインをもとに、薬局にどんな影響があるのかを整理します。


地域医療構想とは何か、ざっくり言うと

細かい制度解説は別記事に譲りますが、ここだけ押さえてください。

地域医療構想は、2040年に向けて、地域の医療提供体制をどう組み替えるかを決める計画です。もともとは2025年をめどに病床の機能分化を進めるものでしたが、2026年(令和8年)3月に新しい方向性がまとまり、対象が大きく広がりました。

新しい地域医療構想は、入院だけの話ではありません。外来医療、在宅医療、介護との連携、人材確保まで含めた、地域の医療提供体制全体の計画になっています。

スケジュールはこうです。

  • 2026年度〜2027年度上半期:データ分析、課題整理、区域の見直し
  • 2028年度まで:各医療機関が2040年に担う機能を具体的な病院名まで含めて決定
  • 2035年頃:一定の成果を確保

つまり、今まさに動いている最中です。そして2028年度までに、あなたの門前病院が2040年に何を担うかが決まります。


薬局に直撃する話:急性期は「人口20〜30万人に1か所」

ここが本題です。

新しい地域医療構想では、医療機関の機能が5つに分類されます。そのうち、手術や救急など医療資源を多く使う医療を担うのが「急性期拠点機能」です。

ガイドラインには、こう書かれています。

急性期拠点機能を担う医療機関については、2040年の人口推計をもとに、人口20万人から30万人程度につき一か所程度を目安に確保する

読み方を変えると、こういうことです。

今、手術や救急をやっている病院のうち、かなりの数が「急性期拠点ではない」ことになる。

急性期拠点にならなかった病院はどうなるか。高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能などに移行します。ガイドラインは、診療実績が相対的に低い病院や、近接して同規模の病院がある場合などについて、集約化を検討するよう明記しています。

病院の機能が変われば、出てくる処方箋も変わります。手術が減れば術後の処方は減る。外来が縮小すれば処方箋枚数そのものが減る。統合されれば、そもそも門前ではなくなる。

あなたの薬局の門前病院は、どの機能を担うことになりそうですか?


「病床は減る」が前提になっている

もう一つ、押さえておくべき事実があります。

ガイドラインは、必要病床数の推計にあたって、病床が削減されることを前提として検討することが必要だと明記しています。令和7年度補正予算で「病床数適正化緊急支援事業」が組まれており、病床を減らすことに対して国が支援金を出す仕組みです。

さらに、急性期拠点機能を担う病院についてすら、「地域において求められる総合的な急性期入院医療の提供機能を維持できる範囲で、ダウンサイズを行うことが求められる」と書かれています。

拠点になっても病床は減る。拠点にならなければ機能が変わる。どちらにしても、今と同じ形のままではない。

これが国の描いている絵です。


実は、薬局は「当事者」として名指しされている

ここで、多くの薬剤師が知らないであろう事実をお伝えします。

地域医療構想のガイドラインには、薬局・薬剤師がはっきりと登場します。

  • 薬剤師会が、地域医療構想調整会議の主たる関係者として明記されている
  • 都道府県は、医療担当部局だけでなく薬務担当部局とも連携体制を構築するとされている
  • 外来医療の効率化の柱として医歯薬連携が挙げられ、服薬情報・副作用・重複投薬の共有が具体例として示されている
  • 在宅医療の多職種連携に訪問薬剤管理指導が繰り返し登場する
  • 協議で確認すべき基本データの一覧に「薬局数」が入っている
  • 人材確保の章で、薬剤師の需給推計を国が検討中と書かれている

つまり、地域医療構想は薬局を「議論の対象」として想定しています。にもかかわらず、薬局側がこの議論をほとんど認識していない。この非対称性が、ぼくは一番危険だと思っているんです。


薬局が今からできること

では、何をすればいいのか。コンサルタントとして医療機関を見ている立場から、3つ挙げます。

①自分の地域の議論を見に行く

地域医療構想調整会議の内容は、多くの都道府県で公表されています。ガイドラインも、住民への積極的な情報公開やパブリックコメントの実施を求めています。

まずは、自分の都道府県のサイトで「地域医療構想調整会議」を検索してみてください。門前病院の名前が議事録に出ているかもしれません。

②薬剤師会の動きに関心を持つ

薬剤師会は調整会議の関係者として名指しされています。つまり、薬局側の意見を届けるルートが制度上あるということです。

そのルートを使うかどうかは、業界側の姿勢次第です。地域の薬剤師会が調整会議でどんな発言をしているか、関心を持つだけでも違うと思っています。

③「門前依存」以外の柱を持つ

これが本質です。

ガイドラインは、在宅医療・医歯薬連携・多職種連携を繰り返し強調しています。国が薬局に期待している役割は、明らかに「処方箋を受けて調剤する」だけではない方向に向かっています。

在宅に踏み出す、医療機関との情報連携を強化する、施設との関係を作る。どれも一朝一夕にはできません。だからこそ、病院の機能が決まる2028年度より前に動き出す意味があります。

医療機関との情報連携という点では、トレーシングレポートの積み重ねも一つの土台になります。関心があればこちらの記事もどうぞ。


制度の動きを追いかけるために

地域医療構想は、診療報酬改定のように2年ごとに来るものではありません。だからこそ、動き出したときに気づけるかどうかで差がつきます。

ぼくは医療政策の全体像を掴むために、医療提供体制や医療経営に関する書籍を手元に置いて、定期的に読み返すようにしています。断片的なニュースだけを追っていると、政策の方向性を見誤ることがあるからです。


地域医療と街づくり 京都発!「日本の医療が変わる」経営哲学 元ひきこもり理事長の病院経営術

病院 2026年 2月号 特集 2040年,日本の病院医療はどうなるのか? 新たな地域医療構想の目指すもの

まとめ:地域医療構想は、薬局の話でもある

  1. 地域医療構想は2028年度までに、各病院が2040年に担う機能を病院名まで含めて決める計画
  2. 急性期拠点機能は「人口20〜30万人に1か所程度」が目安。多くの病院が機能転換を迫られる
  3. 病床は減ることが前提。拠点になってもダウンサイズが求められる
  4. ガイドラインには薬剤師会・薬務部局・医歯薬連携・訪問薬剤管理指導・薬局数が明記されている
  5. 薬局は当事者。門前依存以外の柱を作る猶予は、2028年度までと考えるべき

不安を煽りたいわけではありません。ただ、知らないまま2028年を迎えるのと、知った上で準備するのとでは、まったく違う結果になると思っています。

まずは、自分の都道府県の地域医療構想のページを開いてみてください。そこに、あなたの薬局の10年後が書いてあるかもしれません。


※本記事は厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン」および関連資料に基づき、記事作成時点の情報で作成しています。制度の詳細や最新の動向は、厚生労働省および各都道府県の公表資料をご確認ください。記事中の解釈にはぼく個人の見解が含まれます。