その提案、院長には何と聞こえていますか?|指標変更を通すための4つの組み立て

※この記事は連載「KPIを疑う」の第4回(最終回)です。

「紹介率は目標から外します」と言った瞬間に
この連載を書きながら、ずっと気になっていたことがあります。
ここまで書いてきたことを、実際に院長へ提案する場面を想像してみたんです。会議室で、資料を広げて、こう切り出す。
紹介率は、目標から外そうと思います。
想像の中の院長が、こちらを見ます。
……これ、通らないですよね。
ぼくが院長の立場でも、たぶん引っかかります。紹介率は地域連携の成果そのもので、しかも診療報酬にも関わる数字です。それを「目標から外す」と言われたら、連携をやめるのかと聞き返したくなる。
ここに、この連載の最後の関門があります。
指標の話は、正しければ通るわけではないんですよね。正しさと、伝わり方は別の問題なんです。今回は、その伝わり方のほうを扱います。
そもそも、何の承認が要るのか
まず整理しておきます。ここまでの3回で、事務長の一存では決められないことが3つ出てきました。
- 目標にする指標を、結果から行動へ入れ替えること
- 紹介率のように、相手が決める数字を目標から外すこと
- 最初の3か月は、結果で評価しないこと
このうち、いちばん反発を受けるのは2番です。そして意外なことに、3番もかなり抵抗されます。「3か月も待つのか」と。
逆に言えば、承認が要るのはこの3つだけです。第3回で書いた資料の順番も、報告の型も、前日の事前共有も、全部事務長の裁量でできます。この線引きは、あとでもう一度出てきます。
組み立て1 「やめます」ではなく「両方見ます」
最大の誤解ポイントから潰します。
目標から外すことと、見なくなることは、まったく別です。
紹介率は引き続き毎月見ます。稼働率も見ます。平均在院日数も見ます。資料にも載せます。第3回で書いたとおり、むしろ資料の冒頭に置きます。
変えるのは、現場に「これを達成しろ」と言う対象だけなんですよね。
この違いを最初に言わないと、提案がまるごと「数字を見なくする話」として受け取られます。そうなったらもう通りません。だから順番が大事なんです。
こう切り出します。
紹介率も稼働率も、これまでどおり毎月報告します。そのうえで、現場に持たせる目標だけ、行動の数字に変えさせてください。
「そのうえで」より前を、必ず先に言う。ここが全部です。
組み立て2 院長の心配を、先に言葉にする
院長が本当に気にしていることは、だいたい2つです。
**ゆるくなるのではないか。**行動を目標にすると、頑張ったかどうかの話になって、成果を問わなくなるのではないか。
**数字が甘くなるのではないか。**達成しやすい行動目標を現場が設定して、全部達成、でも経営は変わらない、という状態にならないか。
どちらも、もっともな心配なんですよね。そして正直に言えば、両方とも実際に起こりえます。
だから、こちらから先に言ってしまいます。
行動目標にすると、達成しやすい目標を置いてしまう危険があります。なので、第2回で書いた検算を条件にします。その行動が増えると、どの結果が動くのか。一文で説明できない目標は採用しない。
先に弱点を出すと、提案の信頼性が上がります。隠して後から突かれるより、ずっといいんです。
組み立て3 期限を切り、戻す条件を決める
3つめ。ここが実務的にいちばん効きます。
恒久的な変更として提案しないでください。
「今後は行動指標でやります」だと、院長にとっては後戻りできない決断になります。人は後戻りできない決断を承認したがらないんですよね。当然です。
かわりに、こう言います。
3か月、試させてください。3か月後に、続けるか戻すかを判断します。
そして、戻す条件を先に決めておきます。行動目標が達成されているのに結果がまったく動かない、という状態が3か月続いたら、設計が間違っているので組み直す。この基準を先に示すと、院長は「暴走しない」ことを確認できます。
期限つきの試行にすると、承認のハードルが一段下がります。そして3か月やってみて手応えがあれば、次の会話は「続けさせてください」になる。こちらのほうが、はるかに通りやすいんです。
組み立て4 範囲を、極端に絞る
もうひとつ。全部署一斉に切り替えようとしないでください。
1部署、1指標から始めます。
範囲が小さいほど、承認は簡単になります。失敗しても影響が小さいからです。そして小さく始めて動いた実績は、次の提案のときに何より強い材料になります。
どの部署から始めるかは、いちばん協力的なところを選んでください。困っているところではなく、乗ってくれるところ。最初の1件は成功させることが目的なので。
想定される3つの質問
提案すると、だいたいこの3つが返ってきます。
「結果が出なかったら、誰が責任を取るんだ」
3か月後に判断する、と先に決めてあるので、そこで戻す判断ができます。責任の所在を曖昧にしないための期限でもあるんですよね。
「現場が楽をするだけじゃないのか」
行動目標は結果指標より逃げ場がありません。稼働率は季節要因のせいにできますが、「3日以内に設定した割合」は、やったかやらなかったかしかない。第3回で書いたとおり、会議はむしろ厳しくなります。
「今までのやり方の何が悪かったんだ」
ここは慎重に答えてください。「悪かった」と言うと、それまでの経営判断への批判になります。そうではなく、言葉の定義が割れていたせいで、指標の性質が混ざっていたという話にする。第1回で書いたとおり、これは誰かの怠慢ではないんです。
断られたときに、何が残るか
正直に書きます。この提案は、通らないこともあります。
そのときでも、事務長の手元には残るものがあります。さっきの線引きを思い出してください。承認が要るのは3つだけでした。
資料の冒頭に結果指標を短く置くこと。報告の型を3点セットで配ること。前日に院長へ数字を渡しておくこと。これは全部、承認なしでできます。
そして、正式な目標でなくても、自部署の中で行動指標を測りはじめることはできます。3か月後、その数字を持って提案し直せばいい。データがある提案は、ない提案とはまったく別物になります。
通らなかったら、通る準備をする。それだけの話なんですよね。
連載を終えます
4回にわたって書いてきました。振り返ると、やっていたことは一貫しています。
第1回、指標が結果か行動かを見分ける。第2回、結果を要素に割って自分たちが決められるものだけを残す。第3回、会議でも同じように自分の裁量の範囲だけを動かす。そして第4回、承認が要るものと要らないものを線引きする。
全部、同じことなんです。
自分が決められることと、決められないことを分ける。そして決められることに集中する。
KPIという言葉の定義から始まった話が、結局ここに戻ってきました。ぼくにとっても、書きながら発見だったんですよね。
最後に、ひとつだけ。
この連載で書いたことを、全部やる必要はありません。第1回でお願いした「指標を書き出して仕分ける」だけでも、来月の会議の見え方は変わります。そこから先は、変わった見え方が教えてくれます。
まずは、紙を1枚。そこからです。
