その行動目標、成果につながっていますか?–結果指標を、成果に繋げる行動指針に分解する手順

「KPIを疑う」連載第2回

「訪問件数を増やします」で、会議が止まった
前回の記事を書いたあと、ある場面を思い出しました。
指標の見直しを始めた病院で、「では行動を目標にしましょう」という話になったときのことです。すぐに出てきたのが、連携先への訪問件数を増やす、という案でした。
行動指標としては、たしかに正しいんです。円もついていない。週次で動く。誰が何をすればいいかも明確。前回お伝えした3つの判別法を、きれいに全部クリアしています。
でも、ぼくはそこで止まりました。
訪問件数が増えると、何が動くんでしょうか。
答えられないんですよね。訪問すれば紹介が増える気がする。でもそれは、なんとなくの感覚でしかない。もし訪問件数が目標どおり増えて、それでも紹介がまったく増えなかったら、次に何をすればいいのか分からなくなります。
行動指標にすれば解決、ではないんです。
前回は「結果と行動を見分ける」話でした。今回はその先、結果指標を、成果につながる行動指標に分解していく手順を書きます。
前回、自院の指標を書き出して仕分けてみてくださいとお伝えしました。おそらく結果側に大きく偏っていたはずです。その偏りを、どうやってほぐしていくか。ここが今回の本題です。
手順1 結果指標を、計算式に割る
最初にやることは、その指標がどういう要素でできているかを分解することです。
病床稼働率でやってみましょう。
稼働率 = 延べ入院患者数 ÷ (病床数 × 日数)
分母の病床数は、そう簡単には動かせません。だから分子を見ます。延べ入院患者数は、さらにこう割れます。
延べ入院患者数 ≒ 入院件数 × 平均在院日数
そして入院件数は、予定入院・緊急入院・転院受入に分かれます。
ここまで来ると、見えてくるものがありますよね。稼働率という一つの数字が、実は性質のまったく違う要素の掛け算だったということです。
そしてもう一つ、この式には現れないけれど効いている要素があります。空床の発生です。退院した日と、次の患者さんが入る日にすき間があれば、そのぶん延べ患者数は減ります。式の上では見えませんが、現場では毎日起きていることなんですよね。
分解のコツは、きれいな数式にこだわらないことです。おおよそでいい。「この数字は、何と何でできているのか」を書き出すことが目的なので。
手順2 「自分たちが決められるか」で仕分ける
要素に割ったら、次はそれぞれを2つに分けます。
自分たちが決められることと、相手が決めることです。
さっきの要素で仕分けてみます。
- 紹介元が患者さんを紹介してくれるかどうか → 相手が決める
- 救急要請を受けるか、断るか → 自分たちが決める
- 退院予定日をいつ決めるか → 自分たちが決める
- 退院日と次の入院日のすき間 → 自分たちが決める
- 患者さんの回復スピード → 相手(というより身体)が決める
この仕分けが、けっこう効くんです。
「紹介を増やす」を目標にしてしまうと、達成できるかどうかが相手次第になります。それは前回話した結果指標と同じ構造なんですよね。頑張っても届かないことがあるし、届かなかった理由も分からない。
だから、相手が決めることは目標から外します。
冷たく聞こえるかもしれません。でも外すのは目標からであって、関心からではないんです。紹介率は引き続き見ます。ただ、それを現場の目標に据えるのはやめる、という話です。
手順3 行動の形に言い直す
残った要素を、そのまま目標にはできません。もうひと手間かかります。
たとえば「救急要請を受けるか断るか」。これを指標にすると救急応需率になりますが、これはまだ結果寄りなんですよね。断る理由は日によって違うので、「応需率を上げろ」と言われても現場は動きようがありません。
だから、こう言い直します。
断った事例を、翌日にレビューした割合。
断ること自体は避けられません。でも、なぜ断ったのかを翌日に振り返る運用は、自分たちで決められます。そして振り返りを続けると、断る理由のパターンが見えてきて、潰せるものが出てくる。
もう一つ。「退院予定日をいつ決めるか」は、こうなります。
入院後3日以内に退院予定日を設定した割合。
これなら、誰が何をすればいいか一目で分かりますよね。そして早く決まれば、ベッドの調整も、退院後の準備も、全部前倒しできます。
言い直すときのコツは、「率」や「件数」の前に、必ず期限か条件を入れることです。「退院予定日設定率」だと、いつ決めても達成になってしまいます。「入院後3日以内」が入って初めて、行動が指定されるんです。
検算 その行動が増えると、何が動きますか
最後に必ずやってほしいことがあります。
出てきた行動指標について、「これが増えると、どの要素が動くか」を一文で説明してみること。
冒頭の訪問件数の話に戻ります。訪問件数が増えると、何が動くのか。ここが説明できなかったから、ぼくは止まったんです。
もし「訪問すると、紹介元が当院の受け入れ可能な疾患を把握してくれる。だから紹介が増える」と言えるなら、指標はもう一段細かくなります。訪問件数ではなく、受け入れ可能疾患の一覧を渡した連携先の数。こちらのほうが、何をすべきかがはっきりしていますよね。
説明できない行動指標は、分解の途中を飛ばして思いついた行動を置いただけなんです。それは前回批判した精神論の、少し賢そうに見えるバージョンでしかありません。
厳しい言い方になりました。でも、ぼく自身が何度もやってきた失敗なので。涙
ひとつだけ、やってみてください
3つの手順と、ひとつの検算。今回はこれだけです。
前回書き出した自院の指標のうち、いちばん気になっているものを1つ選んで、この手順を通してみてください。
いきなり全部やらなくていいです。1つで十分。1つやってみると、分解にどれくらい手間がかかるか、どこで詰まるかが分かります。
そして、たぶん詰まります。要素に割るところまではできても、「自分たちが決められること」がほとんど残らない、という状態になるかもしれません。
それは失敗ではないんです。自院がコントロールできる範囲が、思っていたより狭かったという発見です。その事実に向き合うところから、指標設計は始まります。
次回は、こうして作った行動指標を、月次会議でどう回すかを書きます。指標を変えただけでは、会議は変わらないんですよね。むしろ最初の数か月は、以前より居心地が悪くなることさえあります。その理由と、乗り越え方を扱います。
まずは1つ、分解してみてください。
