薬剤師からコンサルタントになって、改めて思うこと

「事実を先に伝えて、その上で提案する」

これは、今の自分のコンサルタントとしての仕事でも毎日やっていることです。

クライアントに何かを提案するとき、いきなり「こうすべきです」と言っても、相手には届かない。まず今どういう状況なのかを整理して共有して、だから何が問題で、だからこういう提案をしています、という流れを踏むことが大事です。

薬剤師時代、トレーシングレポートを書きながら無意識に訓練していたのが、まさにこのスキルでした。

あのとき書いていたレポートが、今の仕事の土台になっている。

そう気づいてから、「トレーシングレポートをきちんと書ける薬剤師は、どこに行っても通用する」と本気で思っています。


まずこれを決める:疑義照会か、トレーシングレポートか

処方内容について何か伝えたいことがあったとき、まず判断しなければならないのが「今すぐ電話すべきか、レポートで伝えるべきか」です。

この判断軸は**「重要度」と「緊急性」**の2つです。

 緊急性あり緊急性なし
重要疑義照会(今すぐ電話)トレーシングレポート
重要でない疑義照会スルー 笑

トレーシングレポートが適しているのは、「重要だけど急がない」案件です。

たとえば、

  • 体調は安定しているが、残薬が毎回多く飲み忘れが続いている
  • 用法が煩雑で、患者から「一回にまとめられないか」と相談された
  • 薬の飲み合わせによるリスクが生じているが、今すぐ危険というわけではない
  • 疑義照会の電話では状況が伝わりにくく、文章で整理して伝えたい

こういった場面で書くものです。

逆に、今この処方を変えないと患者に危険が及ぶという場面は、迷わず電話での疑義照会です。


3ステップで書く

STEP1|事実を淡々と、簡潔に書く

最初に書くのは「事実」です。意見でも提案でも評価でもなく、まず事実だけ。

なぜか。

いきなり意見や提案を書いても、読む側には「何を根拠にそう言っているのか」が伝わらないからです。事実があってはじめて、評価や提案に説得力が生まれます。

書くべき事実の例:

  • 患者が薬について何を言っていたか
  • 実際に起きていること(残薬の状況、飲み忘れの頻度等)
  • 検査値や体調の変化
  • 他院・他科の処方状況

ここで大事なのは簡潔であることです。

処方医は多忙です。長い文章は読んでもらえません。短い文章で、現状が一目で把握できることを目指す。それだけで、読んだ相手の印象がまったく変わります。


STEP2|事実から何が問題(懸念)なのかを書く

事実を述べたら、次は「その事実が何を意味するのか」という薬剤師としての評価(アセスメント)を書きます。

事実と問題の対応例:

  • 飲み忘れが続いている(事実)→ 治療が奏功しないリスクがある(問題)
  • 用法が煩雑で患者が不満を感じている(事実)→ 自己判断で服薬を中断する懸念がある(問題)
  • A薬とB薬を併用している(事実)→ ○○の相互作用によるリスクがある(問題)

ここもグダグダと書きすぎないことが大切です。

伝えたいことを1〜2点に絞って、端的に。


STEP3|①と②をもとに処方提案をする

事実と問題の整理ができてはじめて、処方提案に入ります。

ポイントは具体性です。

「何をどうしてほしいのか」が読んだ相手の頭にすぐ浮かぶくらい、具体的に書く。

また、できれば提案の根拠となる文献やガイドラインを一言添えると、「根拠のある提案だ」と受け取ってもらいやすくなります。ただし、エビデンスを前面に出しすぎて「これが正しいのだから変えてください」というトーンになるのはNG。あくまで提案の補強として使うものです。

「この論文の通りにすべきです」
⭕ 「こちらの文献に基づき、○○も選択肢の一つかと愚考しております」

意外と大事:言葉選びと文言

トレーシングレポートは医師に読んでもらうものです。言葉のトーンが印象を大きく左右します。

よく使う言い回しをいくつか。

場面文言例
書き出し「平素よりお世話になっております。〇〇薬局の薬剤師△△と申します。」
評価・意見「〜と愚考しております」
提案「不躾な申し出を大変失礼いたします」
締め「引き続きご高診のほど何卒よろしくお願い申し上げます」

特に締めの「ご高診のほど」は、医師同士の紹介状でも使われる言葉です。こういった言葉を一つ知っているだけで、受け取る側の印象がぐっと変わります。


それでも「怖い」と思ったときに

「文句を言われたらどうしよう」 「提案を受け入れてもらえなかったら恥ずかしい」

わかります。自分もかつてそう思っていました。

でも、一つだけ聞いてください。

提案が受け入れられなくて、困るのは誰ですか?

自分が少し恥ずかしいだけで、患者さんは1ミリも困りません。

医師から反応がなくても、提案内容が記録として残ります。それだけで十分に価値があります。

処方提案は「勝ち負け」ではありません。患者さんの治療に少しでも貢献しようとする、その行動そのものに意味があります。


まとめ

トレーシングレポートの書き方、3ステップです。

  1. 事実を簡潔に書く(意見や提案はまだ書かない)
  2. 事実が示す問題・懸念を書く(薬剤師としてのアセスメント)
  3. 具体的な処方提案をする(根拠を添えて、謙虚なトーンで)

「事実→問題→提案」という流れは、トレーシングレポートに限らず、あらゆる場面で使える思考の型です。

次の記事では、シナリオ別の具体的な文例を紹介します。

【次の記事】トレーシングレポート 実例と文例集〜そのまま使えるシナリオ別テンプレート〜


※本記事は個人の経験に基づく見解です。実際の記載方法は勤務先の方針や各処方元との関係性に合わせてご判断ください。