「KPIを疑う」連載第3回

※この記事は連載「KPIを疑う」の第3回です。第1回から読む場合はこちら

指標を変えたのに、会議は前より苦しくなった

前回までで、指標の作り方の話は一区切りつきました。結果と行動を見分けて、結果を要素に割って、自分たちが決められることだけを残す。ここまでできれば、あとは会議で回すだけ——のはずなんですよね。

ところが、実際にはこうなります。

翌月の会議で、行動指標の報告が始まる。入院後3日以内に退院予定日を設定した割合、32%。目標は70%でした。

沈黙が流れます。

前回まで、この場で報告されていたのは稼働率でした。未達でも、そこには言い訳の余地があったんです。今月は季節的に患者さんが少なかった。近隣の病院が新しい病棟を開けた。紹介元の先生が入院を控えている。

どれも嘘ではありません。そして、誰も傷つきません。

でも「3日以内に設定した割合が32%」には、逃げ場がないんですよね。これは自分たちが決められることだと、全員が知っている。だから数字が低いということは、やらなかったということでしかない。

行動指標に変えると、最初の数か月は会議が重くなります。

これは失敗ではありません。むしろ、指標が正しく機能しはじめた証拠なんです。でも、ここで元に戻したくなるんですよね。その気持ちは、ぼくもよく分かります。

今回は、その重さをどう扱うかの話です。

院長がいる場で、事務長に何ができるのか

ここで正直に書いておきたいことがあります。

会議そのものは、事務長が制御しきれません。

院長が冒頭で議題を変えてしまうことがあります。行動指標を報告した直後に「で、稼働率はどうなったの」と聞かれることもあります。未達の報告に対して、特定の部署の責任者が名指しで詰められる場面も起きます。

それを止める方法を、ぼくは持っていません。会議の空気は、その場でいちばん権限のある人がつくるものなので。

でも、思い出してほしいんです。前回、こう書きました。

相手が決めることは、目標から外す。自分たちが決められることだけを残す。

これは指標設計の手順でしたが、実は会議の設計にもそのまま使えるんですよね。会議の進行そのものは院長が決める。でも会議が始まる前のことは、ほぼ全部、事務長が決められます。

今回扱うのは、そこです。

決められること1 結果を、先に短く出す

いちばん効くのは、資料の並べ方です。

行動指標に切り替えた病院がよくやる失敗があります。資料から結果指標を消してしまうんです。行動を見る会議にしたのだから、結果は載せなくていい、という理屈で。

これ、逆効果なんですよね。

院長は結果を知りたいんです。それは当然のことで、経営責任を負っている以上そうでないほうが困ります。資料に載っていなければ、必ず会議中に聞かれます。そして、聞かれてから答えると、その瞬間に会議の主題が結果に移ってしまう。

だから、**結果指標は資料の冒頭に置きます。**そして短く終わらせます。

稼働率、前月比プラス0.8ポイント。平均在院日数、横ばい。以上です。

これだけ。分析も、言い訳も、対策も言いません。数字を置いて、次に進む。

先に出しておけば、あとで聞かれることがなくなります。議論の本体を守るために、冒頭の1分を差し出すという考え方なんです。

決められること2 報告の型を、3点セットにする

次は、報告のフォーマットです。

未達の報告が「できませんでした、すみません」で終わると、その場は反省会になります。これは報告者の責任ではなく、型がないせいなんですよね。人は型がないと、謝るしかなくなるので。

だから、事前に型を配ります。

  1. やった量 — 行動指標の数字
  2. やってみて分かったこと — 障害、詰まったところ
  3. 次の一手 — 来月どう変えるか

さっきの32%だと、こうなります。

3日以内の設定は32%でした。できなかった事例を見ると、主治医との時間が合わないケースが大半でした。特に外来日は捕まえられません。来月は、外来のない曜日に確認の時間をまとめて取ります。

同じ32%でも、まったく違って聞こえませんか。

ここで価値を持つのは2番なんです。**未達は、情報なんですよね。**何がうまくいかないかを教えてくれている。結果指標だとこれが手に入りません。稼働率が下がった理由は、いくら考えても推測にしかならないので。

この型を、会議の1週間前に各部署へ渡しておく。これは事務長が決められることです。

決められること3 会議で、初めて見せない

3つめ。これがいちばん地味で、いちばん効きます。

院長には、前日までに数字を渡しておいてください。

会議の場で初めて数字を見た人は、反射で反応します。32%という数字を見た瞬間、「低すぎるだろう」が口から出る。これは性格の問題ではなく、情報処理の時間がないからなんですよね。

前日に紙一枚を渡しておくと、院長はその数字を一晩持ち歩けます。すると会議での反応が、反射から思考に変わる。「32%か、外来日が問題なんじゃないか」と、こちらが用意していた論点に先回りしてくれることさえあります。

もうひとつ、関連して。**行動指標は、できるだけ部署やチームの単位で設定してください。**個人単位にすると、未達がそのまま個人の評価に見えるので、名指しの構造が生まれやすくなります。

名指しが起きたあとに止めることはできません。でも、起きにくい設計にしておくことはできる。これも事前の話なんです。

3か月は、結果を見ないでください

最後にひとつ、覚悟の話を書きます。

行動指標を入れても、結果はすぐには動きません。退院予定日の設定が早くなってから、それが稼働率に表れるまでには時間がかかります。早くて2か月、ふつうは3か月以上です。

その間、会議では「行動は増えているのに、結果が変わらない」という状態が続きます。ここがいちばん苦しいところで、元に戻したくなります。

だから、最初から3か月は結果で評価しないと決めておいてください。

もちろん、これを事務長の一存では決められません。院長の合意が要ります。そしてこの合意を取ることが、実は指標を変えることそのものより難しかったりするんですよね。

来月の資料、順番だけ変えてみてください

今回はここまでです。

やることは3つでした。結果を冒頭に短く置く。報告の型を配る。前日に数字を渡す。どれも会議が始まる前の話で、どれも事務長ひとりで決められます。

全部やらなくてかまいません。**来月の会議資料で、結果指標を冒頭に移す。**これだけでも、会議の流れは変わります。所要時間は5分です。

そして、会議が重くなったら。それは壊れたのではなく、動きはじめた合図だと思ってください。

次回はいよいよ最終回です。ここまでの話には、ずっと前提がありました。指標を変えることについて、院長の承認が取れている、という前提です。

でも実際には、そこが最初の関門ですよね。「これまで見てきた数字をやめる」と言ったときに返ってくる言葉は、だいたい決まっています。紹介率を目標から外すと言えば、なおさらです。

最終回は、その会話をどう組み立てるかを書きます。

連載「KPIを疑う」

  1. そのKPI、本当にKPIですか?
  2. その行動目標、成果につながっていますか?
  3. その月次会議、なぜ重くなったのですか?(この記事)
  4. (準備中)