「在庫が多すぎる」と言われた日

管理薬剤師になってしばらく経ったころ、本部からメールが届きました。

「在庫、多すぎない?」

読んだ瞬間、「は?」と思いました。正直な第一印象です笑。

多いのはわかる。でも「じゃあいくらが適正なの?」という問いに、答えを持っていなかった。そもそも、適正な在庫量をどうやって判断すればいいのか、誰も教えてくれていなかったんです。

薬剤師として働いていたころ、数字はほぼ意識していませんでした。売上も在庫金額も、誰かが管理してくれているもの、という感覚でした。管理薬剤師になってその「誰か」が自分になった途端、何から手をつければいいのかまったくわからなかったんです。

誰かに教わったわけではありません。正直、教えてくれる人もいなかった。試行錯誤しながら、少しずつ「数字を読む」ということを自分なりに身につけていきました。

今日は、そのプロセスを正直に書きます。


最初に気づいたこと:数字は「結果」であって「原因」ではない

試行錯誤の中で最初に気づいたのが、この視点でした。

在庫が多い、売上が落ちた、処方箋枚数が減った。これらはすべて「結果」です。数字を見て「悪い」「良い」と判断するだけでは、何も変わらない。

大事なのは、その数字がなぜ生まれたのか、現場で何が起きていたのかを考えることでした。

在庫が膨らんでいるなら、何が動いていなくて、なぜ発注が止まっていないのか。売上が落ちているなら、客数が減ったのか、客単価が下がったのか、それとも近隣に競合が出たのか。

数字を見る→現場を思い浮かべる→仮説を立てる→確認しに行く。このサイクルを繰り返すことが、「数字を読む」ということだと、少しずつわかってきました。

あなたは今、数字を「結果」として見ていますか?それとも「現場の声」として読んでいますか?


売上と在庫のバランスで苦労したこと

ぼくが特に苦労したのが、売上と在庫のバランス管理でした。

在庫を絞りすぎると、欠品が起きた

「在庫が多すぎる」と言われたので、発注量を絞りました。在庫金額は確かに下がった。でも今度は、必要な薬が棚にない、という欠品が起き始めた。

患者さんに「この薬、今日は出せません」と言わなければならない場面が増えた。クレームも来た。在庫を絞ることと、必要なものを揃えることは、単純にトレードオフではない。品目によって適正な在庫量がまったく違うんです。

当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、実際にやってみて初めてわかりました。頭でわかっていることと、現場で動かせることの間には、大きな溝がある。

「動く薬」と「動かない薬」を意識し始めた

試行錯誤を重ねる中で、品目ごとに「よく出る薬」と「ほとんど出ない薬」があることを、データで確認するようにしました。

よく出る薬は欠品しないよう多めに持つ。ほとんど出ない薬は最小限に絞る。当たり前のことですが、「なんとなく」ではなく「数字を見て判断する」という習慣ができたのは、この時期からです。

さらに、季節による変動も見えてきました。花粉症の時期、インフルエンザの流行期、夏場の皮膚トラブルが増える時期……。前年の同じ時期のデータを参照しながら発注する、という当たり前の作業が、初めて「当たり前」としてできるようになってきた。

売上の変動を「言語化」するようにした

上司への報告で最も困ったのが、「なぜ売上が変わったのか」を説明することでした。

最初のころは「わかりません」か「季節的なものだと思います」しか言えなかった。でも、それでは管理薬剤師として情けない笑。

そこから、毎週簡単なメモを残すようにしました。「今週は近隣でインフルが流行り始めた」「競合のチラシが入ったせいかOTCが落ちた」「新しいスタッフが入ったばかりで処方応需のスピードが落ちた」……。数字の動きと現場の出来事を紐づけて記録しておく。

これをやるようになってから、上司への説明が変わりました。「先月の処方枚数が落ちたのは、近隣クリニックが一週間休診だったためで、今月は戻ってきています」と言えるようになった。数字に「文脈」をつけることが、管理薬剤師としての報告だと気づいたんです。


この経験が、コンサルタントになって活きた

40歳を超えて、115社に応募して、114社に落ちながら、医療経営コンサルタントに転職しました。エージェント全員に「難しい」と言われた転職です。

コンサルタントとして医療機関の経営に関わるようになって、管理薬剤師時代に身につけた「数字を現場と結びつける力」が、そのまま使えることに気づきました。

病院の稼働率が落ちている。外来患者数が減っている。薬剤費が膨らんでいる。これらもすべて「結果」であって、原因は現場にある。数字を見て仮説を立てて、現場を確認しに行く。ドラッグストアの在庫管理でやっていたことと、本質は同じでした。

当時の試行錯誤は、遠回りに見えて、まったく無駄ではなかったと思っています。


まとめ:数字は「現場の声」として読む

管理薬剤師として数字を扱うようになって、試行錯誤の末に身についたことを整理します。

  1. 数字は結果。原因は現場にある。数字を見たら、現場で何が起きていたかを考える習慣をつける
  2. 在庫は品目ごとに適正量が違う。「動く薬」「動かない薬」をデータで把握して判断する
  3. 売上の変動は「言語化」して記録する。数字に文脈をつけることが、報告と次の行動につながる
  4. 誰も教えてくれなくていい。試行錯誤そのものが力になる

数字が苦手な薬剤師は多いと思います。ぼくもそうでした。でも「苦手だから」と距離を置いていると、管理薬剤師として現場を動かす力がどんどん弱くなっていく。

まず、今週の処方箋枚数を先週と比べてみてください。違いがあれば、なぜかを一つだけ考えてみる。そこから始めれば十分です。


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※本記事はぼく個人の体験に基づく見解です。職場環境や業態によって状況は異なります。参考程度にお読みください。