一店舗の数字と、複数店舗の数字は別物だった

以前、管理薬剤師時代に「数字を読む力」を試行錯誤で身につけた話を書きました。一つの店舗の売上や在庫を、現場と結びつけて読む力です。

エリアマネージャーになって、その延長でいけると思っていました。でも、複数店舗の数字を見るのは、一店舗のときとはまったく別の難しさがあったんです。

一つの店舗なら、数字の裏にある現場が見えている。でも複数店舗になると、それぞれの現場を知らないまま、数字だけが並んで手元に届く。しかもその数字を、店長にフィードバックしなければならない。

今日は、複数店舗の数字と格闘した試行錯誤を正直に書きます。


エリア全体をまとめて見る、という難しさ

最初にぶつかったのが、「エリア全体をどう捉えるか」でした。

各店舗の数字はバラバラに上がってきます。売上が伸びている店舗、落ちている店舗、横ばいの店舗。それを一つひとつ見ていくと、頭の中がごちゃごちゃになる。「で、うちのエリアは全体として good なのか bad なのか?」がわからなくなるんです。

かといって、全店舗を合計した数字だけを見ると、今度は個々の店舗の問題が見えなくなる。全体の売上は伸びていても、実は一つの好調店舗が全体を引っ張っているだけで、他は落ちている、ということもある。

全体を見れば個が見えず、個を見れば全体がわからない。この行ったり来たりに、最初はかなり苦労しました。あなたなら、複数の対象をまとめて見るとき、どうやって全体像を掴みますか?


数字を店長にどう伝えるか、で悩んだ

もう一つ悩んだのが、数字を店長にどう伝えるか、でした。

複数店舗を見ていると、どうしても店舗間で比較したくなる。「A店はこの数字を達成しているのに、B店は届いていない」という見方をしてしまう。

正直に言うと、最初のころは、この比較を店長にそのままぶつけてしまっていた時期がありました。「他店はできているのに、なぜここはできないのか」と。

でも、これは店長を追い詰めるだけでした。店舗にはそれぞれ事情がある。立地、客層、スタッフの人数や経験、近隣の競合状況。条件が違う店舗を単純な数字だけで比較して、「なぜできないのか」と迫るのは、フェアではなかった。

数字は嘘をつかない、とよく言います。でも、数字は「文脈を抜きにすると人を傷つける」ものでもあるんです。


店舗ごとの事情を考慮して見るようになった

試行錯誤の末にたどり着いたのが、「店舗ごとの事情を織り込んで数字を見る」という視点でした。

同じ「売上が落ちた」でも、意味はまったく違います。近隣に競合ができて落ちたのか、スタッフが退職して人手が足りないのか、そもそも周辺の人口が減っているのか。数字が同じでも、背景が違えば打ち手も変わる。

だから、数字を見るときは必ず「この店舗の条件は何か」をセットで考えるようにしました。他店と単純比較するのではなく、その店舗の過去と比べてどうか、その店舗の条件の中でどこまでやれているかという見方に変えたんです。

この見方に変えてから、店長との対話も変わりました。「他店と比べてどうこう」ではなく、「先月と比べてここが良くなったね」「この条件の中でよく踏ん張っているね」と言えるようになった。店長も、数字の話を前向きに受け取ってくれるようになりました。


自分なりの「見る順番」を作った

試行錯誤しながら、ぼくは自分なりの数字の見方の「順番」を作っていきました。参考までに紹介します。

  1. まずエリア全体の傾向を掴む:全体として伸びているのか、落ちているのか。大きな方向性を先に確認する
  2. 次に、各店舗を「その店舗の過去」と比べる:他店比較ではなく、前月・前年同月との比較で変化を見る
  3. 変化が大きい店舗を特定する:急に伸びた・落ちた店舗を見つける。異変はここに表れる
  4. その変化の「理由」を現場に探しに行く:数字だけで判断せず、店長に背景を聞く、実際に足を運ぶ

この順番で見るようにしてから、頭の中のごちゃごちゃがだいぶ整理されました。全体から個へ、数字から現場へ、という流れです。

完璧な方法ではありません。でも、自分なりの「見る型」を持っておくことで、大量の数字に振り回されずにすむようになりました。


この経験が、コンサルタントの仕事に直結している

今、医療経営コンサルタントとして複数の医療機関の数字を見る立場になって、あのときの試行錯誤がそのまま活きています。

複数の医療機関を比較するとき、単純な数字の優劣だけで判断すると、必ず現場の反発を招く。それぞれの機関の条件を織り込んで、その機関の中での変化を見る。数字の裏にある現場を想像して、理由を探しに行く。

エリアマネージャー時代に身につけた「数字を文脈で読む」という力は、コンサルタントの核心的なスキルそのものでした。あのとき店長を追い詰めてしまった反省があるからこそ、今は数字の伝え方に気をつけられている。失敗も含めて、全部が今につながっています。


まとめ:数字は「比較」ではなく「文脈」で読む

複数店舗の数字を見る試行錯誤を整理します。

  1. エリア全体を見れば個が見えず、個を見れば全体がわからない、という難しさがある
  2. 店舗間の単純比較を店長にぶつけると、追い詰めるだけになる
  3. 店舗ごとの事情を織り込み、「その店舗の過去」と比べる見方に変えた
  4. 「全体→個→変化→理由」という自分なりの見る順番を作った

数字を扱う立場になると、つい数字だけで判断したくなります。でも、数字は現場の「結果」であって、そこには必ず文脈がある。その文脈を読むことが、複数を束ねる立場の人間に求められる力だと、ぼくは思っています。

もし今、複数の対象の数字を見る立場にいるなら、他と比べる前に「その対象の過去」と比べてみてください。見えてくるものが、きっと変わります。


【関連】管理薬剤師が数字を読む力:売上・在庫を現場と結びつけるまでの試行錯誤

エリアマネージャーになって最初にぶつかった壁【複数店舗の難しさ】

現場を離れる葛藤:患者さんと関われなくなった薬剤師マネージャーの本音


※本記事はぼく個人の体験に基づく見解です。組織体制や業態によって最適な数字の見方は異なります。参考程度にお読みください。