「あの人が怖い」と言って、異動願いが出ていた

これは、後から知った話です。

管理薬剤師だったころ、ぼくのマネジメントスタイルはかなりオラオラ体育会系でした。自覚はありましたが、「厳しくして何が悪い、仕事なんだから」と思っていた部分があった。

ある時期、一人のスタッフが異動願いを出していたことを、だいぶ後になってから知りました。理由のひとつが「あの人が怖い」だったと。

正直、ショックでした。ショックというより、恥ずかしかった。ぼくは「背中で語れ」「手本を見せれば伝わる」と信じていたのに、伝わっていたのはプレッシャーだけだったかもしれない。

実はこのブログに、2020年に書いた記事があります。タイトルは「若手薬剤師の育て方〜行動で示して背中で語る〜」。当時のぼくが正しいと思っていたことを書いた記事です。

今読み返すと、考え方の土台は間違っていないと思う部分もある。でも、令和の今の職場にそのまま当てはめるには、足りない視点があったと感じています。

今日は、あの記事のアップデート版として、今ぼくが考える若手育成の話を書きます。


「背中で語る」は、今も必要だと思っている

最初に言っておくと、「手本を見せること」の価値はまったく変わっていないとぼくは思っています。

患者さんへの服薬指導の姿勢、疑問に答えるときの向き合い方、難しい場面での立ち居振る舞い。こういうものは、言葉で教えるより、目の前で見せる方がはるかに伝わります。

それは令和になっても変わらない。むしろ「なぜそうするのか」の言語化がセットになることで、手本の効果はさらに高まると思っています。

問題は、手本を見せた「その後」でした。

昔のぼくは、手本を見せれば伝わると思っていた。でも実際は、見せるだけでは足りない。見せた後に何をするかが、令和の育成では決定的に重要なんです。


昔のぼくに足りなかった3つのこと

①やらせてみる、という工程がなかった

手本を見せた後、ぼくはすぐに「わかった?」で終わらせていました。

でも、見ることと、やることの間には大きな溝がある。見ただけでできるようになる人はほぼいません。大事なのは、見せた後に「じゃあやってみて」と任せる工程です。

失敗してもいい場面で、実際にやらせてみる。そこで初めて「できていないこと」が本人にも見えてくる。教わる側が自分の課題を自覚してから初めて、学びが始まるんです。

あなたは部下に「やらせてみる」機会を、意識的に作っていますか?

②フィードバックが「指摘」になっていた

昔のぼくのフィードバックは、端的に言えば「ここが違う、こうしろ」でした。

間違っていることを指摘して、正しい方法を伝える。内容としては正しいかもしれない。でも受け取る側からすれば、ただ怒られているように感じることがある。特に、言い方が強かったり、人前でやったりすると、それは萎縮につながります。

令和の若手育成で大事なのは、フィードバックの「中身」と同じくらい「言葉の選び方」と「届け方」です。

まず良かった点を伝える。その上で改善点を一つに絞る。「なぜそうした方がいいか」の理由を添える。最後に「どうすればよかったと思う?」と本人に考えさせる。このサイクルを繰り返す方が、長期的に人は育ちます。

「優しく言うと伝わらない」と思っていたころのぼくへ、今なら言えます。優しく言っても伝わります。むしろその方が、次の行動につながりやすい。

③部下が「どうなりたいか」を聞いていなかった

昔のぼくは、「こうなってほしい」というゴールをこちらが決めて、そこに向けて育てようとしていました。

でも、部下にはそれぞれの「なりたい姿」があります。在宅に興味がある人もいれば、OTCの専門家になりたい人もいる。管理薬剤師を目指している人もいれば、今の仕事をしっかりこなすことを大事にしている人もいる。

その想いを聞かずに、こちらの型に当てはめようとしていた。それがすれ違いの根っこにあったと、今は思っています。

「あなたはどうなりたいの?」と聞くだけで、育成の方向性がまったく変わります。指導する側が決めるのではなく、本人の想いを起点にする。令和の育成で最も大事な視点は、ここだとぼくは思っています。


合う合わないは、正直ある

ここまで書いてきて、一つ正直に言わせてください。

育て方をどれだけ工夫しても、合う合わないという問題は残ります。

ぼくのスタイルが合わなくて、異動を希望したスタッフがいた。それはぼくの育て方の問題でもあったけれど、スタイルの相性という側面もゼロではないとも思っています。

大事なのは、「合わなかった」という事実から目を背けないこと。「あいつが悪い」でも「自分が全部悪い」でもなく、「何がすれ違っていたのか」を冷静に見ること。

ぼくはあのスタッフの異動願いを知ってから、しばらくそのことを考え続けました。答えは出ていません。でも考え続けることをやめないことが、管理薬剤師として誠実でいることだと思っています。


まとめ:変わったのは若手ではなく、時代と自分だった

令和の若手薬剤師の育て方について、今ぼくが考えることをまとめます。

  1. 手本を見せることは今も有効。ただし「なぜそうするか」の言語化をセットにする
  2. 見せた後に「やらせてみる」。失敗できる場面で任せることが学びの起点になる
  3. フィードバックは言葉と届け方が命。内容が正しくても、受け取れなければ意味がない
  4. 部下の「なりたい姿」を起点にする。こちらの型に当てはめるのではなく、本人の想いを聞く

「背中で語れ」は間違っていなかった。でも、それだけでは足りなかった。

変わったのは若手ではなく、時代であり、ぼく自身でした。過去の自分を全否定はしません。でも、アップデートし続けることをやめない。それが、管理薬剤師として、コンサルタントとして、ぼくが大事にしていることです。

まず一つだけ、明日から変えてみてください。


【旧記事】若手薬剤師の育て方〜行動で示して背中で語る〜(2020年執筆)

管理薬剤師になって最初に困ったこと【ドラッグストア編・体験談】

管理薬剤師のシフト・労務トラブル、面談で乗り越えた話


※本記事はぼく個人の経験と反省に基づく見解です。育成の方法は職場環境やスタッフの状況によって異なります。参考程度にお読みください。