診療報酬改定の説明会で、いつも感じていたこと

ぼくは薬剤師として17年間、ドラッグストアの現場と経営に関わってきました。その中で、診療報酬・調剤報酬の改定説明会に何度も足を運びました。

改定のたびに感じていたのは、「なぜこの項目が新設されたのか」「なぜこの点数が下がったのか」という”背景”が、説明会ではほとんど語られないということです。制度は毎回、まるで空から降ってくるように提示されます。

でも本当は、制度の前には必ず「思想」があります。その思想が最も色濃く表れているのが、毎年6〜7月に閣議決定される「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる骨太方針です。

経済財政運営と改革の基本方針2026 | 内閣府

骨太方針2026はこちらです⇩
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf

令和8年7月21日に決定された骨太方針2026は、副題が「責任ある積極財政」元年。この言葉だけでも、これまでとは違う予算編成の方向性が見えてきます。今回は、薬局経営に関わりが深い部分を中心に、コンサルタントとしての視点で解説していきます。

そもそも骨太方針とは何か

「うちは中小の調剤薬局だから、国の方針なんて関係ないのでは」

そう思う薬局経営者の方も多いかもしれません。ぼく自身、経営コンサルタントに転身する前はそう感じていました。

ですが、骨太方針は、その年の予算編成や、翌年以降の診療報酬・調剤報酬改定、医療保険制度改正の”設計図の設計図”にあたるものです。厚生労働省が個別の制度を作る前に、政府全体としての優先順位や財政の使い方の方向性がここで決まります。つまり、骨太方針を読むことは、来年・再来年の制度変更を先読みするための、いちばん確実な情報源を読むことに近いのです。

診療報酬は「決まったルール」ですが、骨太方針は「ルールを決める前の考え方」です。この順序を理解しておくと、制度変更が発表されたときに「なぜこうなったのか」がすぐに腑に落ちるようになります。

薬局経営に関わる主要ポイント

膨大な文書の中から、薬局経営者が押さえておきたい論点を絞って解説します。

1. 現役世代の保険料率を「引き下げる」という明確な方針

骨太方針2026では、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくという方針が繰り返し強調されています。これは裏を返せば、医療・介護給付費の伸びを抑える圧力が今後も継続するということです。

薬局にとっては、調剤報酬や薬価が「経済・物価動向を反映する」とされる一方で、給付と負担の見直しが同時並行で進むという、綱引きの構造の中にいることを意味します。楽観も悲観もせず、この綱引きが数年単位で続く前提で経営計画を立てる必要があります。

2. セルフメディケーションとスイッチOTC化の加速

「攻めの予防医療」という章の中で、セルフメディケーション推進の観点から、スイッチOTC化を実効的に進める方策を検討するという記述があります。また、地域住民の健康増進に資する薬局機能・薬剤師の役割強化も明記されています。

これは、薬局が単なる「処方箋を持ってくる場所」から、「地域の健康相談窓口」としての機能を求められる流れが、国の思想レベルでも後押しされているということです。OTC類似薬の保険給付見直しの議論とセットで考えると、保険外収益(OTC販売、健康相談、検査サービスなど)の比重を高める経営戦略は、追い風の中にあると言えます。

3. リフィル処方箋・地域フォーミュラリの拡大

長期処方やリフィル処方箋の活用、地域フォーミュラリの全国展開が、給付の効率化策として名指しされています。

これは調剤回数の減少に直結する可能性がある一方で、薬局側が処方内容の一元管理やトレーシングレポートの精度で差別化する余地が広がるとも読めます。「来局回数が減る」ことをただの逆風と捉えるのではなく、1回あたりの薬学的介入の質で評価される時代への移行と捉えたほうが、経営の打ち手は見えやすくなります。

4. 医療DXと電子処方箋・電子カルテの普及

医療情報化推進方針の策定、電子カルテ・電子処方箋の普及と情報連携、医薬品等データベースの構築が明記されています。医療・介護に関する情報の二次利用を含む利活用基盤の構築も進む方向です。

小規模薬局にとっては投資負担の重い分野ですが、逆に言えば、ここで基盤を整えた薬局とそうでない薬局の差が、数年後には埋めがたいものになる可能性があります。システム投資の優先順位を上げておくべき理由が、ここに明記されていると考えてよいと思います。

5. 医薬品の安定供給と後発品産業構造改革

特定重要物資を含む医薬品の国産化・安定供給、後発医薬品等の産業構造改革の推進による安定供給が掲げられています。長年続く後発品の供給不安に対して、国としても構造的な手当てを進める姿勢が示された形です。

薬局の現場感覚としては「まだ実感が湧かない」という段階かもしれませんが、仕入れ・在庫管理の負荷が中期的に緩和される可能性がある、という前提でサプライチェーンとの付き合い方を見直すタイミングとも言えます。

6. 2027年度薬価改定と創薬イノベーションの評価

2027年度薬価改定の実施が明記されており、費用対効果評価制度の見直しや、革新的新薬のイノベーション評価の検討も進みます。薬局の直接的な収益構造への影響は薬価差益の動向次第ですが、薬価制度そのものが「安定供給」と「イノベーション評価」の両立を目指す方向にシフトしていることは、仕入れ戦略を考えるうえで知っておいて損はありません。

薬局経営者は、この文書からどう動くべきか

ここまで読んで「情報は分かったけれど、結局何をすればいいのか」と思われた方もいるかもしれません。

ぼくがコンサルタントとしてお伝えしたいのは、骨太方針を読む一番の価値は「個別の対策を今すぐ決めること」ではなく、「向かい風と追い風の方向を先に知っておくこと」だということです。

  • 保険調剤だけに依存した収益構造は、中期的に厳しくなる前提で考える
  • OTC・健康相談・予防領域への展開は、思想レベルで後押しされている
  • システム投資(電子処方箋対応など)は「コスト」ではなく「参入障壁を作る投資」と捉え直す
  • 供給不安は構造的に緩和方向に向かう可能性があるが、時間軸は数年単位

こうした前提を持っておくだけで、来年の調剤報酬改定や制度変更のニュースに接したときの受け止め方が変わってきます。「また点数が下がった」で終わらせず、「この思想の延長線上にある変更だな」と理解できることが、経営判断のスピードと精度を上げてくれます。

おわりに

骨太方針は、率直に言って読みやすい文書ではありません。ぼくも今回、通読するのにかなりの時間を使いました。でも、17年間現場にいた身からすると、こういう“制度の上流”を自分の目で確認する習慣がある経営者とない経営者とでは、5年後の差は決して小さくないと感じています。

刺激があるから人生は愉しい。制度変更という刺激を、ただの逆風ではなく、次の一手を考えるきっかけに変えていきたいですね。