OTC類似薬の保険給付見直しとスイッチOTC化、薬局は「売上が減る」で終わらせていいのか


ドラッグストア時代、レジで感じていた違和感
ぼくがまだドラッグストアの薬剤師として現場に立っていた頃、こんな場面によく出会っていました。
風邪気味のお客様が、市販の総合感冒薬を手に取りながら「これ、病院行けば保険で安く出るんですよね?」と聞いてくるんです。悪気はまったくない、ごく自然な質問です。でも、その質問の裏には「保険が効くなら、わざわざ自費で買う理由がない」という、ある意味では合理的な行動原理が透けて見えていました。
正直に言います。当時のぼくは、その質問に対して明確な答えを持っていませんでした。「保険制度ってそういうものだから」としか言えなかったんです。でも今、コンサルタントとして骨太方針2026を読み返すと、この違和感こそが、国が本気で変えようとしている構造そのものだったんだな、と分かります。
今回は、骨太方針2026の中でも薬局経営に直結する「OTC類似薬の保険給付見直し」と「スイッチOTC化」について、深掘りしていきます。
骨太方針が示している内容
骨太方針2026の医療・介護のパートには、こう書かれています。
医療・介護保険における金融所得・資産の扱いと並んで、OTC類似薬の保険給付の見直しの施行状況を踏まえた、2027年度以降の対象範囲拡大に向けた検討を進める
という一文です。
さらに、攻めの予防医療の章では、セルフメディケーション推進の観点から、医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策を検討し、必要な措置を行う、とも明記されています。
つまり方向性は2つ同時に進みます。
- 軽微な症状に使われる医薬品を、保険給付の対象から段階的に外していく
- 医療用医薬品をOTC(一般用医薬品)へ転換する動きを、実効性を持って加速させる
「OTC類似薬を保険から外す」と「スイッチOTC化を進める」は、別々の話に見えて、実は同じコインの表と裏なんです。保険で安く出す仕組みを縮小しながら、その受け皿としてOTC市場を広げる。この両輪が同時に回り始めています。
読者の皆さんの薬局では、風邪薬・湿布・ビタミン剤・整腸剤といった、いわゆる「OTC類似薬」の処方は、月にどれくらいの割合を占めていますか。一度、レセプトデータで確認してみてほしいんです。
なぜ国はこの方向に進むのか
理由は財政だけではありません。骨太方針全体を通して繰り返されているのは「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」という方針です。医療給付費全体を抑えながら、この目標を達成しようとすれば、必然的に「本当に保険で守るべき医療」と「自己負担・自己判断で対応できる医療」の線引きを、これまでより厳しく引き直す必要が出てきます。
軽微な症状に対する医薬品は、その線引きの最前線に立たされているんです。これは今回の骨太方針で急に出てきた話ではなく、これまでの改革工程表でも繰り返し議論されてきたテーマが、いよいよ実行フェーズに入ってきた、という位置づけで捉えるのが正確だと思います。
薬局にとってのリスクとチャンス
ここで薬局経営者として考えるべきは、「処方箋の受け取り件数が減るかもしれない」という不安だけではありません。
正直、短期的にはリスクです。軽微な症状での受診・処方が減れば、調剤の絶対量にも影響が出ます。特に、風邪症状や湿布中心の処方構成になっている薬局では、無視できない変化になり得ます。
一方で、スイッチOTC化が進むということは、これまで病院でしか手に入らなかった薬効成分が、薬局・ドラッグストアの店頭で扱えるようになるということでもあります。つまり、保険調剤の外側に、新しい商品ラインナップと相談需要が生まれるということです。
ここで問われるのは、薬局が「OTC販売の窓口」として機能できる体制を、今のうちに作れているかどうかです。登録販売者の育成、健康相談スペースの確保、セルフメディケーション税制の案内体制。地味な話に聞こえるかもしれませんが、この地味な準備の差が、数年後の売上構成の差になって表れてきます。
皆さんの薬局では、OTC販売にどれくらいの人員と棚を割いていますか。調剤だけで完結する店づくりのままでいいのか、一度立ち止まって考えてみる価値があると思います。
経営者として、今から動けること
具体的には、次のような準備が考えられます。
- OTC類似薬の処方構成比を可視化し、影響の大きさを先に把握しておく
- 登録販売者の採用・育成を、調剤専門薬剤師と並ぶ経営資源として位置づけ直す
- セルフメディケーション税制の周知を、レジ横のポップだけでなく、服薬指導の会話にも組み込む
- スイッチOTC化候補となっている成分の動向を、業界紙や日本OTC医薬品協会の発表からウォッチする習慣をつける
どれも派手な打ち手ではありません。でも、制度が変わってから慌てて動くのと、思想が見えている段階から準備するのとでは、着地点がまったく違います。
おわりに
あのときレジで質問してきたお客様に、今のぼくならこう答えると思います。「保険はこれから、本当に必要な医療にもっと絞られていきますよ。だからこそ、市販薬とうまく付き合う知識が、これからの時代はご自身の武器になります」と。
薬局は、この変化の”被害者”にも”主役”にもなれます。どちらを選ぶかは、制度が固まる前の今、何を準備しておくかにかかっています。まずは自店のOTC類似薬の処方割合、今日にでも確認してみてください。
出典 経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日閣議決定) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html
