ある日の薬局での出来事

薬剤師として薬局に勤務していた頃の話です。

ある日、一度も来たことのない患者さんから電話がかかってきました。

「病院からFAXで処方箋が届いているはずなんですが、薬はもらえますか?」

「はい、確認します。……あ、届いていますね。ただ、処方されているこのお薬、当薬局では在庫がなくて…」

「え?! じゃあどうすれば…?」

こういうやりとりが一日に何件もある。

薬局側からすると、初めて来る患者さんは情報が何もない状態からスタートです。住所も連絡先も、他に飲んでいる薬も、アレルギーも、何もわからない。それでも薬を安全に渡さなければならない。在庫がなければ業者に緊急発注して、場合によっては郵送の手配もする。

地味に大変なんですよ、これが。涙

患者さん側からすれば「いつもの薬」なのに、薬局側からすれば「初めましての患者さんへの初めての薬」なんです。


薬局薬剤師をやめた今だから言えること

あれから数年が経ち、自分は今、病院経営のコンサルタントとして働いています。

立場が変わって改めて思うのは、薬局と病院の連携、そして患者さんとの関係づくりがいかに大事か、ということです。

薬剤師時代は患者さんに「かかりつけ薬局を持ってください!」と言う立場でした。 コンサルタントになった今は、病院側から「いかに地域の薬局と信頼関係を築くか」を考える立場になりました。

どちらの立場からも言えること、それがかかりつけ薬局の大切さです。


そもそも「かかりつけ薬局」ってなに?

読んで字のごとく、「いつも利用する薬局」のことです。

かかりつけ医と同じような感覚で、自分の薬や体調のことを継続的に相談できる薬局・薬剤師を持ちましょう、という考え方です。

英語では 「family pharmacy」 といいます。 「弱いつながり」の話をしておいて「family」って強めじゃないか、と思いますが 笑、それくらい身近な存在を目指しているということでしょう。


かかりつけ薬局を持つメリット3つ

① 気軽に健康の相談ができる(しかも基本タダ)

薬局薬剤師は、医療職の中でも珍しい存在です。

来局や電話で、基本的に無料で薬や健康の相談ができる。

病院に行けば必ず診察料がかかります。当然ですよね、そのために医師がいるわけですから。でも薬局では、「ちょっと聞いてみたいだけ」という相談が気軽にできます。

よく行くスーパーの店員さんとはちょっと雑談できる、あの感覚に近い。 完全な赤の他人でもなく、親友でもない。ちょうどよい距離の「顔見知り」。

実は社会学の研究で、人生の充実には「強いつながり(家族・友人)」だけでなく「弱いつながり(ちょっとした知人)」も重要だとわかっています。 (Granovetter, 1973)

かかりつけ薬局の薬剤師さんは、まさにその「弱いつながり」として機能してくれる存在なのです。

② 薬の踏み込んだ相談ができる

「先生には言いにくいけど、この薬ってほんとに効いてるのかな…」 「飲み忘れが多くて、正直ちゃんと飲めていないんですよね…」

こういう**「お医者さんには言いにくいこと」**、薬局で話してもらえると薬剤師はすごく助かります。

なぜかというと、実は処方された薬がそのまま安全に使えるとは限らないからです。

自分が薬局で働いていた頃、一日の仕事の中で少なくとも1件は

「このまま渡したら、むしろ健康被害が出るかもしれない」

という処方に遭遇していました。

腎機能が低下している患者さんに、腎臓から排泄される薬が通常量で処方されていたり。 相互作用のある薬が同時に出ていたり。

そういう時は病院に確認の電話を入れて、量を調節したり、別の薬に変えてもらったりします。疑義照会と呼ばれる薬剤師の重要な業務です。

実際、全国の薬局薬剤師の疑義照会によって、年間236億円・一日あたり6,400万円の医療費削減に貢献しているというデータもあります。

(参考:薬局薬剤師の疑義照会による医療費削減効果 Yakugaku Zasshi. 2016;136(9):1263-73.)

地味ですが、かなり大事な仕事なんです。

そしてこの疑義照会は、患者さんの情報があればあるほど精度が上がります。 かかりつけ薬局であれば、あなたの薬の履歴も体の状態もある程度わかっている。だから「いつもと何か違う」に気づきやすい。

③ いざというとき(受診できないとき)に強い

体調を崩した、急に外出できなくなった、育児や介護で動けない。

そんなときでも、薬だけは途切れさせてはいけない慢性疾患の方(高血圧・糖尿病・コレステロールなど)は少なくありません。

かかりつけ薬局があれば、電話一本でかなりのことが対応できます。 薬の残量確認、医師との連絡調整、郵送対応など。

自分が薬局で勤務していた頃も、ご自宅が近くにある患者さんはこういった場面でスムーズに対応できていることが多かったです。 反対に、初めての方はどうしても時間と手間がかかってしまう。


デメリットも正直に言います

かかりつけ薬局を持つことのデメリットを一つ挙げるとすれば、病院受診の後に薬局にも立ち寄るという「もう一手間」が発生することです。

院内処方(病院の中で直接薬をもらう)に比べると、確かに一ステップ増える。

ただ、「院外で別の薬剤師が処方内容をもう一度チェックする」という仕組みそのものが、患者さんの安全を守るための二重チェックになっている、というのが薬剤師として・コンサルタントとして両方の立場から言える自分の考えです。


コンサルタントになって気づいたこと

今の仕事柄、病院の経営者や管理者と話す機会が多くあります。

病院側から見ると、地域の薬局とどれだけ信頼関係が築けているかは、医療の質にかなり影響します。薬局から「この患者さん、こんなことを話していました」という情報が入ってくることで、処方の見直しや副作用の早期発見につながることがある。

要するに、薬局と病院は対立関係じゃなくて連携関係であるべきなんです。

患者さんにとっても、かかりつけ薬局を持つことで医療の連携の輪に自然に組み込まれ、より安全に・より適切に医療を受けられる環境が整います。


まとめ:まず一番近くの薬局に行ってみてください

かかりつけ薬局のつくり方は簡単です。

自宅や職場に一番近い薬局に、次回の処方箋を持って行く。

それだけです。

最初は「どこの馬の骨かわからない薬剤師」だし、こちらもあなたのことを全然知らない。ぎこちないかもしれません。でもそれは慣らし運転の段階。

少しずつ情報を共有して、少しずつ関係ができていくものです。

急な体調の変化のとき、薬の飲み合わせが不安なとき、子どもの市販薬を選ぶとき。 「あの薬局に行けばいい」という場所が一つあるだけで、心強さが全然違います。


薬剤師として現場で働いた経験と、今のコンサルタントとしての視点から言える確かなことが一つあります。

かかりつけ薬局は、あなたの健康を長期的に守るための、地味だけどすごく大事なインフラです。

まずは、一番近くのお薬屋さんに顔を出してみてください。


※本記事は薬剤師・病院経営コンサルタントとしての個人的な経験・見解をもとに書いています。個別の薬や症状についての判断は、必ずかかりつけ医・薬剤師にご相談ください。