「指導の通知が来たんですが…どうすればいいですか?」

薬局で勤務していたある日、店舗に厚生局からの何やら怪しい郵便物が届きました。

封筒を開けたら「新規個別指導のご案内」。

その瞬間、薬局長さんの顔が一気に青ざめる。笑

「監査されるんですか?!」 「指摘されたらどうなるんですか?!」 「うちの薬局、何か問題あったんでしょうか…」

気持ちはよくわかります。 「個別指導」という言葉の響き、なんか怖いですよね。

でも結論から言うと、新規個別指導は怖いものではありません。

むしろ「せっかくだから活用しよう」くらいの心持ちでいい。

この記事では、新規個別指導の概要を、かつて臨床薬剤師として現場を見てきた経験を踏まえながら解説します。


そもそも新規個別指導とは何か

新規個別指導とは、新たに保険薬局の指定を受けた薬局に対して、開設後おおむね6か月〜1年以内に行われる厚生局による指導のことです。

ポイントは「教育的な指導」という位置づけであること。

監査(不正請求などの疑いがある場合に行われるもの)とは性格が全く違います。 処分が前提ではなく、「開業初期に正しい運営の基盤を整えてもらう」ための機会です。

新規に開設されたすべての保険薬局が対象になりますので、「うちだけ?何かやらかした?」という心配は不要です。


よくある不安・誤解に答えます

Q. 監査と同じですか? 処分されますか?

A. 違います。監査とは全くの別物です。

新規個別指導は行政手続法上の「行政指導」であり、処分前提ではありません。 不備があった場合はその場で是正を促されますが、それで終わりです。

監査は、不正請求などの疑いがある場合に別途行われるもの。まったく別の話です。

Q. 拒否できますか?

A. できません。正当な理由がなければ応じる義務があります。

健康保険法・国民健康保険法に基づいて義務付けられています。 正当な理由なく拒否すると、より厳格な「個別指導」や監査の対象になる可能性があるので、素直に応じるのが得策です。

Q. どんな雰囲気ですか? 怒られますか?

A. 質疑応答形式の、わりと落ち着いた場です。

厚生局の会議室に薬局側が出向き、面接懇談方式(質疑応答形式)で進みます。所要時間はおおむね1時間程度。

怒鳴られたり詰め込まれたりするような場ではありません。 担当官から「この算定の根拠は?」「薬歴にはどう記録していますか?」などと確認される形式です。

注意!
過去に、「めちゃくてヤ◯ザみたいに詰められた!」「この加算は返してもらうぞ!」と脅されたなんて話も聞きますが、それはコロナ前の話。今はそうでもないのかなと個人的に思っています。

記録類がきちんと整備されていれば、答えに詰まることはほとんどありません。


実際に何を見られるのか

指導の場では、対象患者のレセプト(調剤報酬明細書)・処方箋・調剤録などを持参して、算定内容と実際の業務が合致しているかを確認されます。

コンサルタントとして見てきた中で、特によく指摘されるポイントが3つあります。

① 薬歴(薬剤服用歴)の記録の質と整合性

算定している加算の内容が、薬歴にきちんと記録されているかどうか。

「かかりつけ薬剤師指導料を算定しているのに、薬歴に継続的な関与の記録がない」といったケースが典型的な指摘事例です。

算定すること自体が問題なのではなく、「やっていること」と「書いてあること」が一致していないのが問題なんですよね。

② 服薬指導の実施状況

残薬確認、副作用確認、相互作用のチェック、他科受診の把握など、保険薬剤師として求められる薬学的管理が実際に行われているか。

「記録にはあるけど実態は…」という薬局は、質疑応答の段階でうまく答えられなくなります。日頃の業務の積み重ねが問われる場でもあります。

③ 請求内容と算定要件の整合性

後発医薬品体制加算、服薬情報等提供料など、各加算の算定要件を満たしているかどうか。

「なんとなく算定していた」という加算が一番危ない。要件を正確に理解していないと、指摘を受けてから慌てることになります。


事前に準備すべきこと(これだけやれば大丈夫)

  1. 対象レセプトの確認と、対応する記録類の整備 処方箋・調剤録・薬歴・疑義照会記録などが、算定内容と整合しているかチェックしておきましょう。
  2. 加算の算定要件の再確認 算定している加算ごとに、要件を満たしているかを一つひとつ確認。不安なものは算定を止めるか、要件を満たせるよう体制を整える。
  3. 答え方の練習 「この薬歴の記録は何を意味しますか?」「どのように服薬指導しましたか?」といった質問に、スムーズに答えられるよう準備しておく。 慌てて余計なことを言わないことが大事です。

コンサルタントとして言えること

新規個別指導の通知が来たとき、薬局の方が一番困るのは**「何をどう準備すればいいかわからない」**という状態です。

逆に言えば、何を準備すればいいかさえわかれば、恐れる必要は全くない。

「指摘されたら恥ずかしい」と思うかもしれませんが、開業から1年以内の薬局に完璧な運営を求めているわけではありません。むしろ「こういうところを直してくださいね」と教えてもらえる機会だと思えばいい。

問題なのは、指摘を無視すること。準備せずに臨むこと。そして、通知を無視して拒否すること。

それさえしなければ、新規個別指導は怖くありません。


法的根拠(参考)

新規個別指導の根拠となる法律は主に3つです。

  • 健康保険法 第78条:保険医療機関・保険薬局等に対する指導・検査等の規定
  • 国民健康保険法 第45条の2:同様の指導・監査等の規定
  • 高齢者の医療の確保に関する法律 第72条:後期高齢者医療に係る指導・監査等の規定

これらの「指導」の枠組みの中に、新規個別指導・集団指導・個別指導などが位置づけられています。


まとめ・次回予告

今回のポイントをまとめます。

  • 新規個別指導は「教育的指導」であり、監査や処分とは別物
  • 新規保険薬局は全件対象なので、「うちだけ?」という心配は不要
  • 見られるポイントは「薬歴の質」「服薬指導の実態」「加算の算定要件」
  • 準備さえすれば怖くない

次回は、実際の指導に向けた具体的な準備の進め方と、よくある指摘事例の対処法を解説します。

「通知が来たけど何から手を付ければ…」という薬局長さんは、ぜひ次回の記事もご覧ください。


※本記事は薬剤師としての経験・見解をもとに書いています。個別のケースへの対応については、地方厚生局または専門家にご相談ください。