管理薬剤師1年目が知らないと怖い「集団指導」の全貌――薬局が指定取消になる前に読んでほしい話


管理薬剤師になって最初の春、ぼくは正直なめていました。
「指導?監査?まあ来たら来たで対応すればいいか」
そんな甘い認識のまま、ある研修会に参加して青ざめました。令和5年度だけで、約46.2億円が返還を求められ、21件の薬局が指定取消を受けているという現実を知ったんです。
■NEWS 23年度の保険医療機関等の指定取消は21件―指導・監査等の実施状況
今でこそ病院経営コンサルタントとして、医療機関側から指導・監査を「対策すべきリスク」として眺める立場になりましたが、薬剤師15年超のキャリアのうち、管理薬剤師だった時期にこの知識をちゃんと持っていたかと聞かれると……正直、自信がありません。
この記事は、そんな「昔のぼく」みたいな管理薬剤師1年目の人に向けて書いています。難しい法律の話を、できるだけ「自分ごと」として受け取ってもらえるように。

薬剤師が調剤報酬の基本を学ぶときに最初に読む本: 調剤報酬の基本について基礎からわかりやすく解説 面白いほどよくわかる!調剤報酬(令和6・7年度対応)
そもそも「集団指導」って何をされるの?
管理薬剤師になると、まず「集団的個別指導」という言葉を耳にすると思います。
これ、名前がまぎらわしいのですが、2種類に分かれています。
「集団的個別指導」は、レセプト1件当たりの平均点数が高い薬局を対象に、グループで呼び出して講義形式で行われるものです。社会保険診療報酬支払基金と都道府県の国保連が管理するデータをもとに、類型区分ごとに算出した平均点数と比較して「高点数」と判定された薬局が対象になります。薬局の場合は1区分しかありません。
で、ここが怖いのですが、集団的個別指導を受けた翌年度も高点数に該当し続けると、今度は「個別指導」に移行します。個別指導は面接懇談方式で、実施件数は全保険医療機関等の約4%です。対象になるとわかった日から、どれだけ資料を整えられるかが勝負になります。
あなたの薬局は、今どの位置にあるか把握しているでしょうか?
「うちは普通に算定してるから大丈夫」という感覚、ぼくも昔は持っていました。でも「不当請求」は、詐欺でも何でもありません。算定要件を満たさないだけで、該当してしまうんです。
「不正」と「不当」の違い、説明できますか?
指導・監査の世界では、この2つが明確に区別されています。
不正請求は、詐欺や不正行為に当たるものです。具体的には次の4種類です。
- 無資格者調剤:非薬剤師による調剤
- 架空請求:調剤の事実がないのに請求
- 付増請求:実際に行っていない調剤内容を付け加えて請求
- 振替請求:実際に行った調剤内容を、点数の高い別の内容に振り替えて請求
一方の不当請求は、算定要件を満たさないまま請求してしまうケースです。たとえば「薬剤服用歴に服薬指導の要点を記載していないのに、服薬管理指導料を算定している」というのがその典型例です。
ここで本音を言います。ぼくが管理薬剤師だった頃、薬剤服用歴の記録を「形式的に入力する作業」だと思っていたスタッフを注意しきれていませんでした。指導内容の要点ではなく、テンプレートをそのままコピーしているような薬歴が存在していたんです。それが「不当請求」のリスクと直結しているとわかっていれば、もっと真剣に向き合えていたと思っています。
薬剤師法第25条の2は、調剤時だけでなく、調剤後も患者の薬剤使用状況を継続的かつ的確に把握し、指導を行うことを義務化しています。「渡したら終わり」ではないんです。この義務の内容が、そのまま薬歴の記載内容にも直結しています。
もしいま、スタッフの薬歴記載を確認したことがないなら、今週中に一度見てみてください。
監査になったら、どうなるか知っていますか?
「指導」の次にあるのが「監査」です。監査方針には明確に書かれています。「不正又は著しい不当が疑われる場合等において、的確に事実関係を把握し、公正かつ適切な措置を採ることを主眼とする」と。
監査後の措置は、2種類があります。
行政上の措置としては、指定・登録の取消、戒告、注意があります。取消処分となった場合、原則として5年間は再指定・再登録が行われません。
経済上の措置としては、不正・不当の事実が認められた場合、原則として5年間分を返還しなければなりません。さらに40%の加算金が加えられることもあります(健康保険法第58条)。
5年分。この重さ、伝わるでしょうか。
さらに見落としてはいけないのが、薬剤師法第8条の存在です。薬局の犯罪や不正の行為があった者については、厚生労働大臣が戒告・3年以内の業務停止・免許取消の処分を行うことができます。
処分の基準として特に注意したいのは、「故意でなくても、重大な過失がしばしば行われれば、処分の対象となり得る」という点です。知らなかった、ではすまないのがこの世界なんです。
管理薬剤師として、スタッフに「なぜこの記録が必要か」を伝える義務があります。ルールを守ることを、ただ強制するのではなく、なぜ守るのかの意味を共有できているかどうかが、管理薬剤師の力量だとぼくは思っています。
薬担規則の「落とし穴」――意外と知らない禁止事項
保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)は、保険薬局が保険調剤を行う上で守らなければならない基本的なルールをまとめたものです。
ここに、意外と見落とされがちな規定がいくつかあります。
まず、薬担規則第2条の3の「一体的構造・一体的経営の禁止」。保険医療機関と一体的な構造とすること、または一体的な経営を行うことは禁止されています。いわゆる門前薬局の形態でも、「一体的」と判断されるような関係性は問題になりうるんです。
次に、第2条の3の2の「経済上の利益の提供による誘引の禁止」。患者に対して、受領する費用の額に応じた商品の値引きや、その他の経済上の利益を提供することで、自己の保険薬局において調剤を受けるよう誘引することは禁止されています。ポイント還元や割引サービスの設計は、ここに抵触しないよう慎重に確認が必要です。
また、薬担規則第2条の4の「掲示義務」も要注意です。薬局内の見やすい場所に厚生労働大臣が定める事項を掲示しなければならず、さらに令和7年5月31日までの経過措置付きで、ウェブサイトへの掲載も原則義務化されています。ホームページの情報、最近更新しているでしょうか?
さらに、意外と知られていないのが「患者を特定の保険薬局に誘導することの対償として、保険医療機関から金品を受け取ること」が禁止されているという点です(療担規則第2条の5第2項)。これは医療機関側のルールではありますが、薬局側も「金品の供与」を行ってはなりません(薬担規則第2条の3)。双方に禁止規定があるということを、管理薬剤師として把握しておく必要があります。
あなたの薬局で、これらを一度チェックリストとして確認したことはあるでしょうか?
調剤報酬請求で「独自解釈」は絶対にNG
令和6年度の診療報酬改定では、調剤報酬点数表も大きく変わりました。薬学管理料の体系が整理され、かかりつけ薬剤師機能・在宅・医療DXといったテーマで新たな加算が設けられています。
医療DX推進体制整備加算については、令和7年4月以降、マイナ保険証の利用率要件が段階的に引き上げられています。令和8年度には加算1・4で70%、加算2・5で50%が求められる予定です。自院のマイナ保険証利用率は、今どのくらいでしょうか?
こうした改定が2年ごとに行われることを踏まえて、厚生労働省の資料には明確にこう書かれています。
「保険薬剤師と保険薬局は診療報酬のルールをよく理解し、独自の解釈に基づいて請求しない」
分からないことがあれば、まず調剤報酬点数表を確認します。それでも分からなければ、地方厚生(支)局に問い合わせる。その記録を残しておくことが、いざという時の根拠になります。
薬学管理料については特に注意が必要で、「対人業務を評価するもの」であることが明示されています。保険薬剤師自身が個々に算定要件を確認し、算定の可否を判断すること。機械的・一律に請求を行わないこと。 この2点は、個別指導での指摘が多いポイントです。

調剤報酬点数表の解釈 令和6年6月版
まとめ:管理薬剤師の「知らなかった」は、誰も守ってくれない
ぼくが病院経営コンサルタントに転職したのは40歳を超えてからのことです。未経験・4児の父で、115社に応募して1社だけ内定をもらいました。エージェントには全員「難しい」と言われた経験があります。
それでも今、医療機関の経営をサポートする立場から見て強く思うのは、「知識は守る盾になる」ということです。
指導・監査の制度を知っていれば、日常業務の「なんとなく」が「根拠ある行動」に変わります。薬剤服用歴の記載が、単なる作業ではなく調剤報酬請求の根拠であるということ。薬担規則の遵守が、保険薬局としての信頼の基盤であるということ。
管理薬剤師になったばかりの頃は、日々の業務に追われて「制度の勉強」を後回しにしがちです。ぼくもそうでした涙。でも、その「後回し」が積み重なると、気づかないうちに「不当請求」のリスクを抱えてしまうんです。
座右の銘は「刺激があるから人生は愉しい」。管理薬剤師という役職は、確かに重くて怖い側面がありますが、だからこそやりがいもあると思っています。
まず今日、自分の薬局の薬歴記載とレセプト請求の現状を、スタッフと一緒に確認してみてください。 その一歩が、薬局を守ることにつながります。

【令和7年度版】薬局薬剤師必携!加算特化の調剤報酬攻略マニュアル: —もう迷わない!今日から使える算定のポイント徹底解説—
