「お前に指図される筋合いはない」

忘れもしない、薬剤師として働いていたある日の出来事です。

懸命に書いたトレーシングレポートに対して、医師からそんなニュアンスの言葉が返ってきた。直接ではなく、クリニックのスタッフ経由でしたが、意味は十分すぎるくらい伝わってきました。

「何のためにこれだけ丁寧に書いたんだろう」

正直、かなり落ち込みました。それ以来しばらく、トレーシングレポートを書く手が止まった時期もあります。

あれから時間が経って、ぼくは今、医療経営コンサルタントという仕事をしています。40歳を超えてから未経験で転職して、115社に応募して、114社に落ちて、最後の1社でようやく内定をもらった。エージェント全員に「難しい」と言われながら、諦めずに動き続けた結果です。

その過程でいろんな医師や医療機関と関わるようになって、ようやく見えてきたことがあります。

「医師がトレーシングレポートに対して、本音でどう思っているか」、です。

これ、薬剤師側からはなかなか見えないんですよね。今日は、そこを正直に書きます。


医師の反応は、だいたい3タイプに分かれる(ぼくの私見です笑)

まず最初に断っておくと、これはぼく個人の経験と観察に基づく話です。偏見も入っています笑。

でも、多くの薬剤師に話を聞いても、おおよそ同じ感触という人が多い。そういう意味では、あながち外れていないと思っています。

あなたが今関わっている処方医は、どのタイプに近いですか?

タイプ①「歓迎」型:送ってくれてありがとう

「こういう情報はむしろありがたい」「薬剤師の視点から教えてもらえると助かる」という医師です。

最近は、このタイプが確実に増えてきている印象があります。チーム医療の意識が広がっている若い世代に多い。もちろん年配の先生でも歓迎してくれる方はたくさんいます。

このタイプには、遠慮なくレポートを書いて大丈夫です。具体的な提案があれば、むしろ積極的に書いた方がいい。正直、こういう先生との連携は純粋に楽しいんですよね。

タイプ②「中立」型:意見は尊重するが、判断は自分でする

「送ってくれることは否定しないけれど、最終的な処方判断はこちらでやる」というスタンスの医師です。

中堅からベテラン層に多い印象です。悪意はないし、むしろ誠実と言えるかもしれない。処方を変えるかどうかは自分の診療スタイルと経験に照らして判断する、という考え方はごく真っ当です。

このタイプへのレポートは、「提案が通らなくて当たり前」くらいのスタンスで書く方がいいと思っています。押しつけがましくならず、あくまで情報提供として。そのほうが、長い目で見て関係性が育ちやすいです。

タイプ③「拒否」型:俺に意見するな

正直に書きます。こういう医師も、います笑。

「薬剤師ごときが」というような反応をする医師です。年配層やいわゆるパワハラ体質の先生に多い傾向はありますが、若い先生でもたまにいる。ぼくが冒頭で書いた経験は、まさにこのタイプです。

ただ、ここで一つ大事なことを言わせてください。

相手(他人)は変えられません。

このタイプの医師を「歓迎型」に変えようとするのは、ほぼ不可能です。それに時間とメンタルを使うのは、正直もったいない。こちらは粛々とやるべきことをやり続ける。それだけでいいと思っています。


相手のタイプを見極めるには?疑義照会のときが教えてくれる

ここで一つ、実践的な話をします。

担当の処方医がどのタイプかを確認するのに、いちばん手っ取り早いのが疑義照会のときの反応です。

電話で疑義照会をしたとき、医師本人の声や、対応してくれたクリニックスタッフの様子をよく観察してみてください。

「ああ、ありがとうございます」と言ってくれる先生は、たいていレポートにも好意的です。逆に、疑義照会の電話口でも事務的で短く切り上げようとする雰囲気の医師は、レポートへの反応も薄い可能性が高い。

もちろん百発百中とはいきませんが、傾向はかなりつかめます。あなたの薬局の近くにある処方元の先生は、どんな反応をするタイプだと感じていますか?


実は、医師に届いていないことがある【これ、知らない薬剤師が多い】

ここからは、コンサルタントになってから知った話です。薬剤師だったころのぼくは、まったく知らなかった。

ある病院で、こんな出来事がありました。

地域の薬局からFAXで送られてきたトレーシングレポートが、医事課に届いた。担当の事務スタッフは内容をろくに確認せず、そのままゴミ箱に捨てていたんです。

「薬局からFAXが来ても、どう扱えばいいか知らなかった」というのが正直な理由でした。悪意があったわけではない。ただ、知識がなかっただけ。

これは極端な例かもしれないですが、「医師に届いていると思っていたレポートが、実は受付で止まっていた」というケースは、思っているより多い可能性があります。

その病院では、ちゃんと事情を説明することで、以後は地域連携室に転送してもらうようにフローを変えてもらいました。そして関連薬局にも「今後は地域連携室宛に直送してください」と周知しました。

もしくは、病院によってはまず薬剤部(薬剤科/薬剤課)に直送してと言われているところもあるかもしれませんね。

返事が来ない理由のひとつに「そもそも届いていない」があるなんて、薬局側から見ているだけではなかなか気づけないですよね。

もし送り先が「病院の代表FAX」になっているなら、一度確認してみることをおすすめします。地域連携室や総合相談窓口、あるいは薬剤部(薬剤科/薬剤課)に直送できるか、問い合わせてみるだけでも全然違います。


それでも、書き続けることに意味がある理由

医師の反応が3タイプに分かれること、そもそも届いていないこともあること。

「だったら書く意味があるの?」と思った方もいるかもしれません。

ぼくの答えは、あります、です。

理由は3つ。

①「歓迎」型の医師を見つけるためのアクションになる

書かなければ、相手がどのタイプかも永遠にわからない。

書いてみて、反応を観察する。それ自体が、連携できる医師を発掘するプロセスになります。拒否型の医師に当たったとしても、それは「この先生との連携はここまで」と知ることができた、という情報です。

②届いていないなら、届く仕組みを作るきっかけになる

先ほどの病院の話のように、送り先を変えるだけで状況が変わることがあります。

「なんか反応が薄いな」と思ったら、FAXの送り先を確認してみる。地域連携室の存在を調べて問い合わせてみる。そういう小さなアクションが、連携の扉を開くことがあるんです。

③書くこと自体が、薬剤師としての力になる

これは前回と前々回の記事でも書きましたが、改めて。

「事実を整理して、問題を特定して、提案を言葉にする」という思考は、薬局の外でも完全に使えるスキルです。ぼく自身、コンサルタントになってから「トレーシングレポートを書いていた訓練が活きている」と実感しています。

薬剤師歴15年以上、そのあいだに書いてきたレポートは、決して無駄ではなかった。座右の銘「刺激があるから人生は愉しい」で突き進んできたあの日々が、今のぼくを作っている。そう思っています。


まとめ:相手のタイプを見極めながら、粛々と続けよう

医師のトレーシングレポートへの反応は、大きく3タイプに分かれます。

  1. 歓迎型:情報提供をありがたがってくれる。最近増えている。
  2. 中立型:意見は尊重するが判断は自分でする。中堅〜ベテランに多い。
  3. 拒否型:意見そのものを嫌がる。変えようとせず、距離を置く。

相手のタイプを見極めるには、疑義照会のときの反応が参考になります。

そしてもう一つ、忘れてほしくないのが「そもそも届いていない」問題です。FAXの送り先が適切かどうか、一度確認してみてください。地域連携室に問い合わせるだけで、状況が変わることがあります。

相手は変えられない。でも、送り先は変えられる。アクションは変えられる。そして、書くという行為そのものは、必ずあなた自身の力になる。

まずは一通、書いてみてください。


【書き方編】トレーシングレポートはこう書く〜医師に「伝わる」提案をするための3ステップ〜

【文例集】トレーシングレポート 実例と文例集〜そのまま使えるシナリオ別テンプレート〜

【返事が来ない問題】トレーシングレポートに返事が来ない理由と、それでも書き続けるべき理由


※本記事は個人の経験と観察に基づく見解です。医師の反応には個人差があります。医療機関との連携方法は勤務先の方針や各処方元との関係性に合わせてご判断ください。