薬剤師がコンサルで最初につまずく「問題解決の進め方」


コンサルに入って間もない頃、ある病院の課題について、自分なりに時間をかけて調べ上げたことがあるんです。
資料を読み込み、数字を拾い、スライドも作って。これだけやれば何かしら役に立つはずだ、と少し胸を張って発表に臨みました。
返ってきたのは、「それ、だいたいもう知ってる」。
ほぼ総スカンでした。涙
いま振り返ると、当然なんですよね。その病院のことは、そこで働く人たちが一番よく知っています。上司やチームも、すでに状況を整理した資料を持っていました。ぼくが何日もかけて集めたのは、みんながとっくに知っていることの「まとめ直し」だったんです。
しかも、「この発表で何を決めたいのか」を、ぼく自身が言葉にできていませんでした。調べること自体が目的になっていたんです。
薬剤師時代のぼくは、「ちゃんと調べてから答える」ことを大事にしてきました。それはいまでも正しいと思っています。でもコンサルの仕事では、その真面目さが空回りする場面があるんですよね。
この記事では、あの総スカンのあと、ぼくが自分用に作った「問題解決の進め方」のメモをもとに、薬剤師からコンサルを目指す人がつまずきやすいポイントをまとめます。
全体の流れ
ぼくが今使っている問題解決の流れは、次の8ステップです。

流れそのものは、コンサル本でよく見るものです。大事なのは、各ステップで何に気をつけるかのほう。ここからは、ぼくが実際につまずいたところを中心に書いていきます。
目的と現状:全部ひとりで抱えない
目的は「言葉」と「粒度」まですり合わせる
とにもかくにも、まず目的なんです。ここがずれていると、その後どれだけ頑張っても報われません。
ポイントは、目的を自分の頭の中だけで持たないことです。言葉にして、クライアント・上司・チームとすり合わせます。
すり合わせるのは中身だけではありません。粒度もです。
たとえば「収益を改善したい」という目的は、間違ってはいません。でも粗すぎて、何を調べればいいのか決まらないんですよね。「来年度の黒字化に向けて、まず病床の使い方に改善余地があるかを見極めたい」まで言えると、やることが一気に絞れます。
あの日のぼくは、ここを飛ばしていました。
現状は「まず人に当たる」
現状把握で一番やってはいけないのは、全部自分で把握しようとすることです。
ぼくは順番をこう決めています。
- クライアントがすでに整理している資料や分析がないか確認する
- 上司やチームが状況をまとめたものがないか当たる
- それでも足りないところだけ、自分の手と足で一次情報を取りにいく
3の一次情報は、現場に足を運んだり、現場の方に直接話を聞いたりすることです。ここはコンサルの価値が出るところなので、手を抜いてはいけません。
ただ、1と2を飛ばしていきなり3に行くと、ぼくのように「それ、もう知ってる」になります笑
既にあるものを借りて、自分の時間は「まだ誰も知らないこと」に使う。これが現状把握の基本です。
問題と課題は別物です
薬剤師時代のぼくは、「問題」と「課題」をほぼ同じ意味で使っていました。でもコンサルの世界では、この2つははっきり分けて使います。
| 言葉 | 意味 | 病院での例 |
|---|---|---|
| 問題 | あるべき姿(目的)と現状のギャップ | 病床稼働率が、目標をずっと下回っている |
| 課題 | そのギャップを埋めるために、答えを出すべき問い | 紹介患者が減っているのか? 在院日数が短くなっているのか? そもそも病床数が地域の需要に合っているのか? |
| イシュー | 課題のなかで、今この局面でケリをつけるべきもの | 今の病床数を前提に患者を増やすべきか、病床の役割そのものを見直すべきか |
問題は「起きていること」。課題は「解くべき問い」。この違いなんです。
だから課題は、できるだけ「〜か?」の形で書きます。問いの形にすると、何を調べれば答えが出るのかが見えてきます。
「イシューからはじめよ」の考え方
問いの立て方を学ぶなら、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』が定番です。

イシューからはじめよ[改訂版]――知的生産の「シンプルな本質」
この本でいうイシューは、今この局面でケリをつけるべき問題のこと。世の中で問題だと思われていることのほとんどは、イシューではないとされています。
良いイシューの条件として挙げられているのが、次の3つです。
- 本質的な選択肢である(答えが出ると、その先の方向性が大きく変わる)
- 深い仮説がある(常識を覆すような洞察や、新しい構造での説明がある)
- 答えを出せる(今の自分の技術や状況で、実際に答えが出せる)
そして、ぼくに一番刺さったのが「犬の道」という言葉です。
仕事の価値は「イシュー度」と「解の質」の両方で決まります。ところが多くの人は、問いを絞らないまま、とにかく量をこなして解の質を上げようとする。これが犬の道です。
まさにあの日のぼくでした。問いを立てないまま調べ続けたから、量はあっても価値がなかったんです。
なお、この本は「問題」と「課題」を上の表のように定義しているわけではありません。問題と課題の分け方はコンサルで一般的な使い方で、そこに「イシュー」という絞り込みの視点を重ねています。
仮説は「セクシー」に
仮説とは、課題(問い)に対する、今の時点での仮の答えです。
ここでぼくが自分に言い聞かせているのが「仮説はセクシーに」という言葉です。ちょっとフザケた言い方ですが笑、意味はちゃんとあるんです。
セクシーな仮説とは、聞いた人が「えっ、そうなの?」と身を乗り出す仮説のこと。ぼくは次の4つを満たすものだと考えています。
- 意外性がある:現場の「当たり前」や思い込みをひっくり返している
- 構造で説明している:バラバラに見える事実を、一本の線でつないでいる
- 当たれば行動が変わる:正しいとわかったら、打つべき手が大きく変わる
- 確かめられる:何を見れば当たりか外れかがわかる
『イシューからはじめよ』でも、深い仮説の中身として「常識を覆すような洞察がある」「新しい構造で世の中を説明している」という2つが示されています。1と2は、ほぼこれと同じことを言っています。

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セクシーじゃない仮説、セクシーな仮説
さっきの病床稼働率の例で考えてみます。
| 仮説 | 聞いた人の反応 | |
|---|---|---|
| セクシーじゃない | 地域の人口が減っているから、患者が減っている | 「それ、もう知ってる」 |
| セクシー | 患者が来ないのではなく、実は断っている。入院受け入れの返事に時間がかかり、紹介が近くの病院へ流れている | 「えっ、そうなの? 確かめたい」 |
上の仮説は、たぶん半分くらいは正しいんです。でも、当たっていても病院として打てる手があまり変わりません。
下の仮説は、外れているかもしれません。でも、紹介の受け付け記録や断り件数を見れば確かめられます。当たっていたら、取り組むべきことが「集患」から「受け入れの仕組み」に変わります。
ここで大事なのは、セクシーな仮説は外れてもいいということなんです。外れたら、「断ってはいなかった」という事実が一つ確定します。それも立派な前進です。
逆に、外れようのない無難な仮説は、確かめても何も得られません。あの日の発表は、まさにそういう無難な話の集まりだったんです。
「確かめる作業」と「解く作業」を分ける
仮説を立てたあとの作業には、実は2種類あります。ぼくは最初、ここをごちゃ混ぜにしていました。
| 名前 | 何のためにやるか | 病床稼働率の例 | 終わったあとに確かめること |
|---|---|---|---|
| 検証分析 | 仮説が正しいかを確かめる | 紹介の受け付け記録から、断り件数と返事までの時間を集計する | 仮説は当たっていたか |
| 解決施策 | 問題そのものを解消する | 入院受け入れの判断ルールと窓口を一本化する | 問題は小さくなったか |
検証分析は「問いに答えるための作業」。解決施策は「現実を変えるための作業」です。
この2つを混ぜると、仮説が当たっているかわからないまま施策を始めたり、逆に分析ばかりして何も変えなかったりします。
検証分析は「出口」から設計する
検証分析で大事なのは、データを集める前に、どんな表やグラフができれば仮説の白黒がつくかを決めておくことです。
出口が決まれば、必要なデータの種類も、どこまで細かく分けるかという粒度も決まります。月別でいいのか、診療科別まで必要なのか。これを先に決めないと、「とりあえず全部集める」という犬の道に戻ってしまいます。
クライアントとの「広さ」と「深さ」の差を意識する
もう一つ、検証分析を設計するときに意識しているのが、クライアントがすでに知っていることとの差です。
- 広さ:他の病院や全国のデータ、制度の動きなど、院内からは見えにくい情報と並べてみる
- 深さ:院内のデータを、現場が普段は切らない切り口で掘り下げる
どちらかで差がついていない分析は、どんなに丁寧でも「それ、もう知ってる」になります。痛いほど実感しました涙
工数とスケジュールを決めてから動く
検証分析も解決施策も、だいたい複数あります。それぞれにどれだけ手間がかかるかを見積もり、優先順位と日程を決めてから動きます。
ここを飛ばすと、手をつけやすいものから始めてしまい、一番大事な問いに時間が残らないんですよね。
効果の検証も2段階
実行したあとの検証も、2つに分けて考えます。検証分析のあとは「仮説は正しかったか」。解決施策のあとは「問題は小さくなったか」。仮説が正しくても、施策が効かなければ問題は残ります。
伝えるときは「事実→洞察→行動」をセットに
検証の結果を伝えるとき、ぼくが必ず守っている型があります。事実、洞察、行動の3つをセットにすることです。
| 中身 | 病床稼働率の例 | |
|---|---|---|
| 事実 | データや現場で確かめたこと | 紹介のうち、一定の割合を入院受け入れ前に断っていた |
| 洞察 | その事実が何を意味するか | 患者が来ないのではなく、受け入れの仕組みが稼働率を下げている |
| 行動 | だから何をするか | 集患の強化より先に、受け入れの判断ルールを見直す |
あの日の発表は、事実だけを並べたものでした。しかも、みんなが知っている事実を。それでは「だから何?」に答えられませんよね。
事実だけなら、ただの報告です。洞察があって、はじめて「考えた人の言葉」になります。そして行動まで言い切って、はじめて相手が動けるんです。
薬剤師の思考は、武器にも壁にもなる
ここまで読んで、「あれ、どこかでやってる」と感じた薬剤師の方もいると思います。そうなんです。薬剤師は、この流れに近いことを毎日やっています。
すでに持っている型
| 薬剤師の業務 | 問題解決の流れでいうと |
|---|---|
| SOAPのS・O(患者さんの訴え、検査値) | 現状、事実 |
| SOAPのA(薬剤師としての評価) | 問題の見立て、洞察 |
| SOAPのP(計画) | 解決施策、行動 |
| 処方監査での「あれ?」 | 仮説 |
| 疑義照会で処方医に確認する | 検証 |
特に疑義照会は、仮説と検証そのものだと思います。「この用量は、腎機能を考えると多いのではないか」という仮の答えを持ち、確かめにいく。コンサルの仮説思考と、頭の使い方は同じなんです。
だから、ゼロから学ぶ必要はありません。すでに持っている型を、患者さんから病院や組織に対象を広げて使うイメージです。
でも、その真面目さが壁になる
一方で、薬剤師らしい真面目さが、コンサルではつまずきの原因にもなります。ぼく自身が引っかかったのは、この3つでした。
- 全部調べてから動こうとする:薬の仕事では「調べずに答える」は危険です。でもコンサルでは、問いを絞らずに調べると犬の道に入ります。
- 仮説を口にするのが怖い:薬剤師は間違えてはいけない仕事です。だから確信が持てるまで黙ってしまう。でもコンサルでは、外れてもいいから先に出す仮説に価値があります。
- 事実で止まってしまう:客観的に正確に伝えることを大事にしてきた分、「だからどうするか」まで言い切るのが苦手でした。
疑義照会のとき、ぼくたちは実は仮説を口に出しています。それは患者さんを守るために、外れるリスクより確かめる価値のほうが大きいとわかっているからですよね。コンサルも同じで、病院を良くするために、外れるかもしれない仮説を先に出すんです。
まとめ:調べる前に「問い」を一つ書く
「それ、だいたいもう知ってる」と言われたあの日、ぼくに足りなかったのは努力ではありませんでした。足りなかったのは、努力を始める前の「問い」でした。
- 目的は、言葉と粒度まですり合わせる
- 現状は、まず人に当たってから一次情報を取りにいく
- 問題はギャップ、課題は問い。その中からイシューを絞る
- 仮説はセクシーに。外れてもいい
- 検証分析と解決施策を分ける
- 伝えるときは、事実→洞察→行動
薬剤師からコンサルを目指している方に、まず試してほしいことが一つあります。
次に何かを調べるとき、調べ始める前に「今回答えを出したい問い」を一行だけ書いてみてください。そしてその下に、今の時点での仮の答えも一行。
薬局の業務改善でも、在庫の見直しでも、題材は何でも大丈夫です。たった2行ですが、調べる量も伝わり方も、きっと変わります。ぼくも、あの総スカンの日からそこを始めました笑

