白衣を着る回数が、減っていった

エリアマネージャーになって、ある日ふと気づいたことがあります。

「最近、白衣を着ていないな」と。

管理薬剤師のころは、当然ながら毎日調剤室に立っていました。処方箋を受けて、監査して、患者さんに薬を渡して、服薬指導をする。それが薬剤師としてのぼくの日常でした。

でもエリアマネージャーになると、仕事の中心は店舗運営のマネジメントに移ります。会議、店長との面談、数字の確認、本部とのやりとり。気づけば、患者さんと直接関わる時間が、ほとんどなくなっていました。

今日は、現場を離れることで感じた葛藤と、それにどう向き合ったかを正直に書きます。


患者さんと関われないことが、こんなに寂しいとは

正直に言います。一番こたえたのは、患者さんと直接関われなくなったことでした。

ぼくは薬剤師として、患者さんとのやりとりが好きでした。「この前の薬、よく効いたよ」と言ってもらえたときの嬉しさ。不安そうな顔で来た患者さんが、説明を聞いて安心して帰っていくときの表情。そういう瞬間が、薬剤師という仕事のやりがいの核にあった。

それが、マネージャーになった途端になくなった。

数字を見て、店舗を回して、スタッフを動かす。それはそれで大事な仕事です。でも、目の前で患者さんが安心してくれる、あの直接的な手応えがない。「自分は今、誰の役に立っているんだろう」という感覚に、ときどき襲われました。

あなたは、自分の仕事の「手応え」を、どこで感じていますか?


「薬剤師じゃなくなった」わけじゃない、と気づくまで

しばらくの間、ぼくは「自分は薬剤師でなくなってしまったのか」という感覚を抱えていました。

白衣を着ない。調剤しない。患者さんと話さない。だったら、自分は何をしている人間なんだろう。薬剤師という肩書きだけが残って、中身が抜けていくような感覚があったんです。

でも、あるとき考え方が少し変わりました。

ぼくが店舗をより良く運営できれば、その店舗のスタッフが働きやすくなる。スタッフが働きやすくなれば、患者さんへの対応の質が上がる。つまり、ぼくは患者さんと直接関わらなくなった代わりに、「患者さんに良い医療を届ける環境」を作る側に回ったんだ、と。

直接ではなく、間接的に患者さんの役に立つ。関わり方が変わっただけで、目指すものは薬剤師時代と同じだった。そう捉え直せたとき、少しだけ気持ちが軽くなりました。


それでも、現場との接点を意識的に持つようにした

捉え直したとはいえ、頭で納得することと、心が満たされることは別です。

やっぱり現場が恋しい。だから、意識的に現場との接点を持つように工夫しました。

工夫①|店舗訪問のときは、あえて現場に立った

店舗を回るとき、事務所で数字の話だけして帰るのではなく、あえて調剤室に入って、少しだけ現場を手伝うようにしました。

忙しい時間帯に監査を手伝ったり、患者さんに声をかけたり。ほんの短い時間でも、現場の空気を吸うことで、自分が薬剤師であることを思い出せた。それに、現場のリアルな状況を肌で感じられるので、マネジメントの判断にも役立ちました。

工夫②|スタッフの「患者さんの話」を積極的に聞いた

自分が患者さんと関われないなら、スタッフを通じて患者さんのことを知ろうと思いました。

面談や店舗訪問のとき、「最近、印象に残った患者さんいる?」と聞くようにした。スタッフが語る患者さんのエピソードを聞くことで、現場の温度を感じられたし、スタッフのやりがいにも触れられた。これは自分のためでもあり、スタッフのモチベーションを知るためでもありました。

工夫③|「薬剤師としての学び」を止めなかった

現場を離れても、薬剤師としての勉強はやめませんでした。

新しい薬の情報、ガイドラインの改訂、EBMの考え方。学び続けることで、「薬剤師としての自分」を手放さずにいられた。マネジメントの立場でも、薬剤師としての専門性があるからこそ、現場と話が通じる。この学びは、後にコンサルタントになってからも大きな財産になりました。


この葛藤が、後のキャリアにつながった

今振り返ると、この「現場を離れる葛藤」は、後のぼくのキャリアの伏線だったのかもしれません。

40歳を超えて、115社に応募して、114社に落ちながら、医療経営コンサルタントに転職しました。コンサルタントは、まさに「直接患者さんに関わらず、医療の環境を良くする」仕事です。

エリアマネージャー時代に「間接的に患者さんの役に立つ」という感覚を掴んでいたからこそ、コンサルタントという仕事に違和感なく飛び込めたのだと思います。あのとき感じた寂しさや葛藤は、無駄ではなかった。

むしろ、あの葛藤があったから、「自分は医療にどう関わりたいのか」を真剣に考えるようになった。それが今のキャリアにつながっているんです。


まとめ:関わり方は変わっても、目指すものは変わらない

現場を離れる葛藤と、その向き合い方を整理します。

  1. 患者さんと直接関われなくなったことが、一番の葛藤だった
  2. 「間接的に患者さんに良い医療を届ける側に回った」と捉え直した
  3. 店舗訪問で現場に立つ、スタッフから患者さんの話を聞く、薬剤師として学び続ける、という工夫で現場との接点を保った
  4. この葛藤が、後のコンサルタント転職の伏線になった

現場を離れることは、薬剤師でなくなることではありません。関わり方が変わるだけで、「患者さんのために」という軸は変わらない。そう思えるかどうかで、マネージャーとしての充実度は大きく変わると思います。

もし今、現場を離れる寂しさの中にいるなら、「自分は今も、形を変えて患者さんの役に立っている」と、一度考えてみてください。


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※本記事はぼく個人の体験に基づく見解です。感じ方や向き合い方は人それぞれです。参考程度にお読みください。