用語を確かめにいったら、現場の違和感の正体に行き着いた

きっかけは、ほんの小さな引っかかりでした。

経営の話をしていると当たり前のように出てくるKPIという言葉。ぼくもずっと使ってきましたし、意味も分かっているつもりでいたんです。ところがある日、KPIとは別に「PI」という言葉があることを知りました。

Kが付くか付かないか。それだけの違いなのに、なぜ二つに分かれているんだろう。

気になって調べはじめたんですが、これが思っていたより深い話でした。しかも調べていくうちに、ぜんぜん別のことに気づいてしまったんですよね。

自分がこれまで関わってきた病院の会議で、ずっと感じていた違和感。数字は毎月きちんと出ている。全員が真面目に報告している。なのに、話し合いが前に進んでいる気がしない。あの感覚の正体が、この用語の整理の中にあったんです。

今回から数回に分けて、病院の指標設計の話を書いていきます。第1回は、その入口として「言葉の定義」から。

遠回りに見えるかもしれません。でも、ここを飛ばすと後の話が全部ぼやけるので、少しだけお付き合いください。

PIの定義は、実は割れている

先に結論を言うと、PI(Performance Indicator)という言葉には、二つの使われ方があります。

ひとつは、業績を測る指標の総称としての使い方。売上も利益率も稼働率も、業績に関する数字はぜんぶPIです。そしてその中でも特に重要なものがKPI、という単純な包含関係になります。日本のビジネス書やネット記事の多くは、この立場です。

もうひとつは、David Parmenterという人が提唱した整理の仕方。彼は業績指標を4つに分けました。

略語意味性質
KRIKey Result Indicator結果のうち、特に重要なもの
RIResult Indicator結果
PIPerformance Indicator行動
KPIKey Performance Indicator行動のうち、特に重要なもの

ここでのポイントは、performanceを「成果」ではなく「やっていること」と読むところなんです。だからこそ、結果を入れる箱としてResult Indicatorが別に用意されている。この立場では、PIもKPIも両方とも行動側の指標ということになります。

つまり同じ「PI」という言葉が、片方では売上を含み、片方では含まない。

正直、これを知ったときは面食らいました。でも同時に、腑に落ちたところもあったんです。言葉の定義がここまで割れているなら、現場で混乱が起きないほうがおかしい、と。

「KPIを設定しよう」と全員が言っている。でも、ある人はそれを結果の数字だと思っていて、別の人は行動の数字だと思っている。会議がかみ合わないのは、能力の問題でも熱意の問題でもなく、単に指している対象が違うだけかもしれない。

ちなみに余談ですが、ぼくは前職のドラッグストア時代にも「PI値」という言葉を使っていました。来店客1,000人あたりの販売点数を表す小売の指標です。同じ略語ですが、経営でいうPIとは完全に別物なんですよね。もし院内に小売出身の方がいたら、この言葉は思わぬすれ違いを生むので気をつけてください。ぼく自身、一度やらかしています。笑

判別法は、3つだけ覚えれば足ります

定義が割れているなら、どう判断すればいいのか。

ぼくは、こう考えることにしました。言葉の定義を争うのではなく、目の前の数字が「結果」なのか「行動」なのかを見分ければいい。呼び方はどちらでも構いません。大事なのは、性質を取り違えないことです。

判別法は3つです。

1. 円がついていないか

金額で表される数字は、ほぼ結果です。収益も利益率も人件費率も、何かをやった後に出てくる数字なんですよね。行動そのものではありません。

2. 日次や週次で動くか

月次でしか出てこない数字は、結果である可能性が高いです。逆に、今日動けば今日の数字が変わるものは行動側。この「反応速度」は、けっこう正直な判別材料になります。

3. 誰が何をすればいいか、即座に分かるか

これが一番強力です。その数字を見せられたときに、現場の誰かが「じゃあ自分は明日これをやろう」と思えるかどうか。

思えないなら、それは結果指標です。

実際に、仕分けしてみます

では、病院でよく管理されている数字を当てはめてみましょう。

病床稼働率。円はついていません。でも日次で見ていても、それを直接動かす行動は分かりませんよね。「稼働率を上げろ」と言われて、明日何をすればいいのか即答できる人は少ないはずです。これは結果指標です。

平均在院日数。同じく結果です。しかも過去の積み重ねの平均値なので、動かそうとしても反応が遅い。数字としては重要ですが、行動を促す力はほとんど持っていません。

紹介率。これも結果です。紹介は相手が決めることなので、自院が直接コントロールできる数字ではないんです。

入院後3日以内の多職種カンファレンスの実施率。入退院支援加算1の施設基準は7日以内ですが、あえて前倒しで設定しています。これは行動側ですよね。誰が、いつ、何をすれば数字が動くかがはっきりしている。

重点連携先への今月の訪問件数。これも行動です。訪問するかしないかは、完全に自分たちで決められます。

いかがでしょうか。多くの病院で「KPI」と呼ばれている数字が、実は結果指標だったりしないでしょうか。

もしそうだとしても、それは誰かの怠慢ではありません。定義が割れている言葉を使っている以上、起きて当たり前のことなんです。

月次会議が反省会になる理由

ここまで整理すると、冒頭の違和感の正体が見えてきます。

結果指標しか並んでいない会議は、構造的に反省会になるんですよね。

だって、そこで話せることは二つしかないんです。数字が良かったか、悪かったか。そして悪かった場合、話題は自動的に「なぜ達成できなかったのか」に向かいます。原因を探すうちに、誰かが責められているような空気になる。誰も責めるつもりがなくても、そうなります。

そして次に出てくるのが「来月は頑張りましょう」。

これ、対策ではないんですよね。でも結果指標しか手元にないと、それ以外に言いようがないんです。

行動指標が並んでいる会議は、まったく違います。訪問件数が目標に届いていないなら、話題は「なぜ訪問できなかったのか」になる。すると出てくるのは、外来が立て込んでいた、担当者が一人しかいない、といった具体的な障害です。そこから「では訪問日をあらかじめブロックしておこう」という話になる。

同じ「未達」でも、出口がまったく違うんですよね。

結果を目標にすると精神論になり、行動を目標にすると段取りの話になる。

ぼくがこれまで見てきた限り、うまく回っている病院とそうでない病院の差は、真面目さでも能力でもありませんでした。会議のテーブルに何が載っているか。ほとんどそれだけだったように思います。

まずは、書き出してみてください

今回は定義の話に絞りました。次回は、では結果指標をどうやって行動指標に分解していくのか、稼働率と退院支援を例に具体的に書いていきます。

その前に、ひとつだけやってみてほしいことがあります。

いま自院で管理している指標を、紙に全部書き出してみてください。そして今日の3つの判別法で、結果か行動かに仕分けてみる。

たぶん、片方に大きく偏っているはずです。その偏りが、いまの会議の空気をつくっています。

なお、指標を入れ替えるとなると、院長や理事長への説明が必要になりますよね。「これまでの数字を見なくていいのか」と必ず聞かれます。この説明をどう組み立てるかは、この連載の第4回でまとめて扱う予定です。

まずは仕分けから。それだけでも、来月の会議の見え方が変わるはずです。