「言葉通り受け取ったら、ポジショントークだった」

支援先での定例の会議でのことなんです。

現場で人間関係のトラブルが持ち上がって、急遽どう対応するか話し合うことになりました。トップの立場の方が「自分がすぐにでも話を聞きに行きたい」とおっしゃったので、ぼくはその言葉をそのまま受け取って、「ではご一緒に聞きに行きましょう」という折衷案でまとめたんです。

ところが会議が終わったあと、ある先輩から「あれ、一人で行けばよかったんじゃない?あの発言、ポジショントークだよね」と言われてしまって。

正直、めちゃくちゃモヤモヤしました。

トップの立場の方ですから、自分の組織で起きた問題に「誰かに任せます」とは言いにくい。あの発言は「責任者としての姿勢表明」であって、必ずしも「自分が実務として同席したい」という意味ではなかったんじゃないか、と。

でも、その場でそれを見抜けと言われても、ぼくにはちょっと難しいなと思ったんですよね。

――と、ここまで一晩モヤモヤを抱えたあと、チームの別の先輩お二人に率直に相談してみたら、「立ち居振る舞いは全く問題ない」という意見をもらいました。「一人で動けばいい」というのは、指摘してきたその先輩個人の見立てであって、チームの総意ではなかったんです。判断自体は、間違っていなかった。

ほっと胸をなで下ろしたんですが、同時に思ったんです。今回はたまたま一人の意見だったから助かった。もしあれが複数人から同じ指摘を受けていたら、ぼくは同じようにモヤモヤを抱えたまま、次も同じ受け取り方をしていたはずだ、と。

そもそも、この違和感には名前があった

このやりとりを振り返っていて、ふと気づいたことがあるんです。

「言わなくてもわかるでしょ」という前提と、「言われたことがすべて」という前提。この二つは、実は文化人類学の世界ですでに整理されている話なんです。

文化人類学者エドワード・ホールが提唱した「高文脈文化(high-context)」「低文脈文化(low-context)」という枠組みがあります。

  • 高文脈文化:言葉にしなくても、状況や関係性、暗黙の了解で意味を補い合う文化。日本はよくこちらの代表格として挙げられます。
  • 低文脈文化:言葉にされた情報がすべて。文脈への依存を前提にしない文化。ドイツやアメリカ、北欧などが典型とされます。

「なんで目的も言わずにタスクだけ振ってくるんだろう」「なんで言葉通り受け取ったらダメなんだろう」というモヤモヤは、ぼくの読解力の問題というより、組織やコミュニケーションが高文脈側に寄っているという、構造の話だったんですよね。

そう捉え直せただけで、少し肩の荷が下りた気がしました。

依頼する側の「型」:Situation・Task・Intent

とはいえ、「文化の違いだから仕方ない」で終わらせるのはもったいないなと思うんです。低文脈側の実務には、ちゃんと再現性のある型があるからです。

米軍発祥でビジネスにも転用されている、**S-T-I(Situation・Task・Intent)**という組み立て方があります。

  • Situation(状況):なぜ今これが必要なのか
  • Task(タスク):具体的に何をしてほしいのか
  • Intent(意図・目的):これが達成された先に、何を実現したいのか

タスクだけをポンと渡すのではなく、必ずIntentまでセットで渡す。これが低文脈側の標準なんです。

以前、ある業界イベントへの企業出展の準備を任されたとき、「申し込みだけやればいい」と受け取ってしまったことがありました。実際には告知や資材の準備を広報チームと一緒に進める必要があったのに、そこに考えが及ばず、連携のスタートが出遅れてしまったんです。あのときも、渡されたのはTaskだけで、Intentが抜けていたんだな、と今なら言語化できます。

自分が誰かに何かを依頼する側に回ったときは、このS-T-Iを意識して、目的を必ず言葉にしてから渡す。これだけで、相手が同じモヤモヤを抱えずに済むはずなんです。

受け取る側の「型」:ティーチバック

では、依頼を受け取る側はどうすればいいのか。

こちらには医療安全の現場でよく使われる**ティーチバック(teach-back)**という方法があります。指示や説明を受けたら、自分の言葉で言い直して確認するというものです。

「〜という理解で合っていますか?」 「つまり目的は〜で、優先すべきは〜ということですね?」

これは相手の言葉の裏を読む力とは関係ありません。誰でも再現できる、ただの確認動作なんです。

もしあの会議で、ぼくが「トップの方が同席されると、現場の方が本音を話しにくくなる可能性もありますが、いかがしましょう?」と一言確認できていたら。結果は同じだったかもしれませんが、少なくとも後から一人で抱え込むモヤモヤはなかったはずなんです。

裏を読もうとするのではなく、確認する。この発想の転換が、ぼくにはいちばん必要だったんだと思います。

段取り力チェックリストに、一項目足す

ぼくは以前、「段取りが悪い」と指摘されたことをきっかけに、自分用の段取り力チェックリストを作りました

あのチェックリストに、今回の気づきをもとに一項目足そうと思っています。

「これは何のためですか、と口に出したか」

依頼を受け取った瞬間、実行に入る前にこの一言を挟む。それだけで、目的を確認しないまま動いてしまう癖に、ブレーキをかけられる気がしています。

高文脈な環境そのものを変えることは、たぶんできません。でも、その中で自分がどう確認するかは、今日からでも変えられるんですよね。

結局今回は、ぼくに非はありませんでした。でも、この型は「非があったときのため」ではなく、「モヤモヤを抱え込まないため」に持っておく型なんだと思います。使う場面が来なければ、それに越したことはないんです。

同じように「言ってくれよ」と心の中で思ったことがある方、一度この型、試してみませんか。