昨日の記事ではコロナ時代での院内処方の弱点というか脆さについて書き散らしました.
今日はその続きというか,ぼくら薬剤師のいる薬局・薬店を頼ってくださるメリットなどについて補足で書き散らします.
行きつけの薬局をもとう.それが「かかりつけ薬局」
行きつけの飲食店,
行きつけの服飾店,
行きつけのレジャー施設,
などなど
「自分がいつも利用するところ」という場所があるかと思います.
それと同じような感覚で,
「いつも利用する薬局」
というものを持ってみてはいかがでしょうか?
それが,かかりつけ医みたく,「かかりつけ薬局」というものです.
かかりつけ薬局をもつメリットその1:気軽に立ち寄って雑談ができる
新型コロナウイルス感染症の有無を問わず,医療職の中で薬剤師は,特に薬局にいる薬剤師に「気軽に」,なんなら買い物ついでにでもお話し・雑談ができます.
「え?単なる雑談なんて意味あるの?」と思ったそこのあなた,そう,そういうあなたこそ,むしろ雑談が必要なんですよ.特に.
ここで大事なのは,ご家族やご親族,もしくはご近所さんとかではない人と,
たわいもない話ができるという点です.
そういう強い繋がりを持った人ではなく,「いつも行くドラッグストアとかにいる,あの人」,くらいの,そこまで親密ではないけれど,顔見知り,くらいの,少し距離のある,「弱いつながり」のある人とお話をするんです.
なぜそんなことが必要かというと,
人生の成功には「強いつながり」だけではなく「弱いつながり」が必要だと,1970年代のとあるアメリカでの調査で判明しているからなんです.
Granovetter, M. (1973). The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360-1380.
詳細はこの著者のマーク・グラノヴェッターさんについて調べてみてはいかがでしょう.
もしくは,東浩紀さんの「弱いつながり〜検索ワードを探す旅」という書籍を読まれても良いでしょう.
ちなみに,かかりつけ薬局というのは英語で「family pharmacy」というそうです.散々「弱いつながり」とか言っておいて,familyって強めじゃん!とかぼくは思ってしまいました.笑
かかりつけ薬局をもつメリットその2:薬の「具体的で」「つっこんだ」相談ができる
メリット1では弱いつながりを持った人と話をしてみる,というところから少し話が進むと,ご自身の体調や病気,薬,それに付随した不安や不満など,一歩踏み込んだお話をしてみてはいかがでしょうか.
薬局薬剤師は医療職の中で「来局や電話で,基本は無料でお薬や健康の相談ができる」という稀有な立場にいます.
通常,何か体調のことで病院に相談に行けば,そこでは必ず「診察料」という名のお金を負担しなければなりませんし,必要ならば検査なども受けるハメになりますよね.もちろん国民皆保険制度によって全額を支払う必要はないのですが,それでもタダになる人は(ほとんど)いないです.
まぁ,医療福祉制度によって窓口負担のない人は例外として今回は除外します.悪しからず.
この,弱いつながりをもつ薬剤師はあなたのことをそこまで詳しくは理解しておりません.良くも悪くも.ただ,国家資格保有者かつ日頃から研鑽を積んで,患者さんの健康やお薬に関して少しでも貢献したいと思っている医療者であることは間違いありません.
(ですよね,薬剤師のみなさん!)
弱いつながりの薬剤師さんはあなたに対して,弱いつながりだからこそ,中立的な立場から,どこにも寄り掛からないアドバイスを受けることができるのがメリットその2の特徴です.
もちろん,あなたの背景を全く把握していない初めのところでは頓珍漢なアドバイスしか帰って来ないかもしれません.ただ,それは慣らし運転の段階だと思って,できれば,ご辛抱いただきたいです.少しだけ背景を教えていただければ,それがヒントとなって,目の前の薬剤師さんから,もっともっと中立的な,的確な助言をもらえるかもしれませんよ.それに,話をするだけならお金は要りませんし,少し胸の内をそっと吐き出すだけで楽になるっていうじゃないですか.最初はお互いぎこちないかもしれませんが,遠慮せずに,気軽のお声がけくださいな.
かかりつけ薬局をもつメリットその3:コロナ時代では病院に行かなくても薬がもらえる
これは新型コロナウイルス感染症の流行がそこまでおおごとにならなくなる日(そんな日なんてあるのかな…)までの話かもしれませんが,
今はオンライン診療・電話診療が解禁されて,直接医師に対面しなくても薬は出してもらえます.なんなら,必要あらば薬局にも行かずに,薬局から宅急便などの郵送でお薬をお渡しはできます.
こういう時に,いつも利用する薬局がある人は非常に便利でしょう.なにせ,平時から利用しているんですから,「弱いつながり」であれどあなたのことはそこの薬局薬剤師さんはきちんと把握してくださっています.薬の在庫の有無を気にする必要もほとんどありませんしね.
できれば,かかりつけ薬局はなるべく自宅に近いところをおすすめします.実際,ぼくの薬局でもご自宅が近い患者さんはこのコロナ時代でもほとんどなんの不安もなく治療を継続している方が多いですね.きちんとデータを取っていないので曖昧な感覚での話ですが…
反対に,普段は病院内で直接薬をもらっている,いわゆる「院内処方」の患者さんは大変です.薬局を選ぶにしてもどこがいいのかさっぱりですし,せっかく薬局を選んでも薬の在庫がなく,下手をすれば薬の治療が中断されてしまうやもしれません.受診と薬は普段から切り分けておくことのメリットが,コロナ時代の今こそ如実に現れているのでしょう.
かかりつけ薬局をもつデメリット:普段は病院→薬局ともう1ステップ踏まないと薬がもらえない
これは今までお話しした3つのメリットの裏返しです.ぼくのこのデメリットは認めます.一般の方も不便だったり面倒だったりするでしょう.受診したらその場で薬をもらえた方が,
「処方した薬の使い方には問題がない」
という前提が成り立てば楽ですよね.
ただ,みなさんがおそらく当たり前と思っているこの前提,実はそこまで当たり前でもないんですよね…
これは単なるぼくの実感ですが,一日の仕事の中では平均して少なくとも1件は
「このまま薬を渡しちゃむしろ健康被害が出ちゃうかも!」
という処方が来ます.そういう時は病院に問い合わせて,事情を話て薬の量を調節したり,他の薬に変えてもらったり,なんなら薬そのものがなくなることもあります.
もちろん病院にいらっしゃる薬剤師の先生方も,当然薬の安全な使い方には貢献していらっしゃるのですが,彼ら彼女らはもっぱら入院患者さんを担当しており,外来患者さんの細やかなフォローまでは手が回らないというのが実情です.
先日もとある病院の薬剤科長の先生とお会いした時も「外来のことは君たちに任せた!」とおっしゃってくださいました.これもあくまでぼくの体験であり,一般化できる事例ではないのやもしれませんが…
ただ実際,こういった薬局から病院への問い合わせによって,年間で236億円,一日あたりおよそ6400万円ほどの医療費の削減に貢献できているという報告もあります.
薬局薬剤師の疑義照会による医療費削減効果及び医薬分業率との関連性
—全国薬局疑義照会調査— Yakugaku Zasshi. 2016;136(9):1263-73.
地味な立ち回りかもしれませんし,普段はそういうところを見かけることもないのやもしれませんが,薬局薬剤師だってきちんと医療安全,特に薬の安全な使い方に貢献しているんですよ!
これを機に,一人でも多くのひとが,気軽な雑談や相談,安全な薬を使い方を享受できるように,いきつけのお薬屋さん:かかりつけ薬局をもってくだされば幸いです.
今日はここまで.
それでは▽
お家の近くにある薬局・ドラッグストアを行きつけにしよう!
あなたの安全のためにも!!