医療のこと

患者さんが残薬を持ってきた / 相談された時の対応方法ポイント3点

患者さんから「実は飲めてない薬があって,さすがにこれ以上は無理なんで持ってきました…」と言われれること,

薬局薬剤師のみなさまであれば,今のご時世,一度くらいは若手中堅ベテラン問わずご経験があるかと思います.

患者さんが,薬を飲めない・飲まない事案に遭遇した場合,

どんな風に対応すれば良いのか,

今日はそんなテーマについて「ぼくの考え」を書き散らします.

ポイント①:まずは患者さんに「感謝」

「残薬 ≒ 飲んでいなかった薬」なわけですが,

患者さんやご家族さんが,「実はこれだけ薬を飲めてなかったんです…,どうしましょう…???」

と相談された時に,まずぼくが真っ先に口に出すのが,

飲めなかった薬を持ってきてくださってありがとうございます!(ニッコリ笑顔)

なんです.

「え?しっかり薬を飲めてないのになんでありがとうなんて患者に感謝するの?」

なんて思ったそこの薬剤師のあなた,

はい,対応力不足です.ここは断言します.

なんでかって?それは簡単です.

患者さんは生きるために薬を飲むわけであって,薬を飲むために生きているわけじゃないからです.

薬の飲むのはあくまで手段,目的は,「不快な症状を軽減する」とか,「怖い病気を二度と起こさないようにする」とか,「もっと長生きして家族と過ごす」とか,いろんな目的のために,薬を飲んでいるんです.

決して,医療者のいうがままに薬を飲んでいるわけじゃいことは,考えなくてもお分かりいただけるとぼくは思います.

とはいえ,せっかく処方されて調剤した薬を飲んでないとなると,薬剤師としてモヤモヤとした気持ちになるのも当然でしょう.そこま自分も否定しません.

ただし,です.

言われた通りに薬を飲むことが,そんなに,そこまで重要なんでしょうかね?
本当に,飲み忘れとか,何かしらの理由で飲めなかったことが,
そこまで重大なコトになりうるのでしょうかね.

このあたりは患者さん個別の状況(病態,使用薬,予後,周囲の環境)に多分に依存するので,一般化した議論はできませんが,

少なくともどんな時でも薬をちゃんと飲まないとだめ,だなんてことはないかとぼくは思ってます.

それに,そもそも論として,

患者さんはぼくら医療者に薬が残っている(= 飲めてない)なんて言いません.聞いても「飲んでます」とはじめは言い張ります.

これは患者さんが悪いとかそういう浅はかなものでななくて,

患者さんはぼくら医療者,特に処方医主治医に対してええカッコしい振る舞いをするものだからです.

言われた通りに薬を飲まないと,治療を受けないと見捨てられる→だから多少嘘をついてもしっかり「いい患者」を演じなきゃ」という心理が働くのではいないかとぼくは思ってます.

これはもう良いとか悪いとか,そういうものじゃなくて,
患者さんは医療者に対してそういう風に振舞うもんだ,と
ある種割り切って接するのが妥当なのかなとぼくは思います.

だからこそ,
そんな風に嘘をつくからこそ,
「薬が飲めなかった」と言ってくださる患者さん・ご家族さまには心から感謝するんです.

正直にお話ししてくださってありがとうございます!,と.

いきなり残薬の存在に焦点を当てるのではなく,まずは飲めていないことを,
嘘をつかずに打ち明けてくださったこと『そのもの』に感謝しましょう

それは,

「この薬剤師になら本心を打ち明けてもいいかな」

と患者さんご家族さまが思ってくださった何よりの証拠です.

ここに気づいていない薬剤師のなんと多いことか.
せっかく信頼関係が構築出来るきっかけというか,すでに種が芽吹いているその時に,
「ちゃんと薬を飲まないとダメでしょう」なんて杓子定規な対応しかできないのはもったいなさすぎです.

まずは患者さんが打ち明けて相談してくださったコトそのものに心から感謝しましょう.全てはそこからです.

ポイント②:患者さんの容態確認

次は患者さんの容態確認です.何せ薬をちゃんと飲めていないんですから,患者さんの体調には何かしら変化変調があるかもしれないと思って問診を進めましょう.

・血圧の薬なら血圧が乱高下していないか,上がっていないか?
・血糖値の薬ならHbA1cや随時血糖,もしくは付随してeGFRや尿タンパクなどは上昇していないか
・脂質異常症の薬ならコレステロール値に変化はないか?

…などなど,です.

もしくは,

・薬が飲めない,ということは,もしかしてその薬を飲んだら何か体調にお困りなことがあったのですか?(そして主治医には言いにくいこと)
・飲めない薬について,週刊誌やマスメディアなど,不安を煽るような記事があったのですか?

…などなど

このあたりも個別の患者さんの状態状況に寄るので一般化はなんともできにくいところです.なのでここで一般論を論じるよりも,

患者の体調管理に何か支障があったのかを聞き取る

ことに尽力すると良いでしょう.

ポイント③:①,②に基づいてどうするのか考えて提案する

さて,ここまできてようやく,飲めない薬について,どうすべきかを考えます.

これもまぁ個別の状況や飲んでいる薬に多分に依るため,これが唯一の最適解だなんてとてもいえません.ここは断言します.

ただし,なんとなくではあるものの大きな流れはあります.

  1. 飲めていなくて患者さんの体調に問題がある時

    → 素直に飲みましょうとお伝えする
    もしくは飲めない時間帯の処方なら用法変更

  2. 飲めていなくて,けれども体調に変化がない

    → そもそもその薬,要る?
    疑義照会もしくはトレーシングレポートで減薬提案

  3. 飲めていなくて,けれども理由が本人以外(週刊誌等の誇大広告のせい)

    → 患者さんの不安は否定せず,とはいえ,
    どんなところに不安を感じているのか,

        その根っこに焦点を当てて対話を重ねる

  4. 飲めていなくて,体調に変化はないけれど,将来の疾患発症リスク上昇が懸念される

      → そのリスクが患者さんにとって
        「懸念すべきコト」なのかの確認をする.

    → 懸念すべきコトなら飲めるようアシスト
      → 懸念すべきコトでないなら,薬の必要性の再検討(上に戻る)

と言ったところです.

まとめ:患者を責めずに,臨機応変に薬と患者に向き合おう

いかがでしたでしょうか?

これくらいもう実践できていると感じた薬剤師の先生方,
引き続きビシバシ仕事して,その姿を若手に見せてあげてください.それが教育の一端かとぼくは思います.

こんな風に考えたことがなかった薬剤師の先生方,
今日が人生で一番若い日です.あれこれ変な風に迷ったり悩んだりせず,まずはこのフレームワークに則って,騙されたと思って患者さんご家族さまに向き合ってみましょう.

大丈夫,少しくらい失敗してもすぐに問題になることはないはずです.
失敗することも折込ずみで,一人でも多くの患者さんと接してください.対話してください.

それが,「あなた」という薬剤師の技量や魅力をどんどん向上させる養分になり得ますから.

 

今日はここまで.
それでは▽