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【論文】ダビガトラン起因性食道炎ってなに?気をつけるべきポイントと対処方法

新規経口抗凝固薬,いわゆるDOACってやつですね.
日本でも今ではワーファリンと同じく(?),循環器領域では常識と言える薬になっているかと自分は思います.

そんなDOACのひとつのダビガトラン(プラザキサ®︎)に,特徴的で注意すべき副作用があります.

その名も「ダビガトラン起因性食道炎(dabigatran-induced esophagitis, 以下DIE)」

別名「剥離性食道炎」とも呼ばれ,消化器内科の領域ではよく知られた副作用のようで,Googleでも日本語で「ダビガトラン起因性食道炎」とベタ打ちで検索すれば日本語の症例報告も見つけれられます↓

藤田孝義, 近藤真也, 榊原真肇.
ダビガトラン起因性食道炎.
日本消化器内視鏡学会雑誌 2017年 59巻 4号 p.456-457


https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/59/4/59_456/_pdf/-char/ja

どうしてDIEが起きるの?

プラザキサ®︎カプセルの添加物に酒石酸があるのですが,こいつがなかなかに酸性度の高い物質で(pKa=3.2, 4.3),カプセルを服用した際に胃まで到達せずに食道壁に付着することで食道炎・食道潰瘍を引き起こすのではないかと言われています.

類似の発生機序の薬剤にビスホスホネート(BP)製剤がありますね.BP製剤は主薬がみな「○○酸」と読んで時のごとく酸性物質で,pKa値も低く(2〜3程度),食道壁に付着すると食道炎・食道潰瘍を引き起こします.それゆえにBP製剤は(詳細は端折りますが)180ml,コップ一杯くらいの水で服用し,さらにその後30分は横にならないこと(薬が食道に残るのを防ぐ)が大事になります.医療者の皆さんもそういった服薬指導をしたことがあるかと思います.

プラザキサ®︎には残念ながらBP製剤のような服薬のコツ(?)は添付文書に明記されておりません.ですが,類似の服薬方法で食道炎の改善に有効だった事例もあります.明日から実践して見てはいかがでしょうか?

泉川孝一, 稲葉知己, 水川翔, et al.
服薬指導が有用であったダビガトランによる薬剤性食道潰瘍の2例
日本消化器病学会雑誌 2014年 111巻 6号 p.1096-1104
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/111/6/111_1096/_pdf/-char/ja

DIEってどれくらいの頻度で起きるの?

2016年に小規模ではあるもののDIEの有病率について報告があります.
プラザキサ®︎を服用している患者のおおよそ20%(5人に1人!)がDIEを有しているのではないかと言われておりますね.
Toya Y, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2016 Mar;31(3):610-4. PMID:
26102078

また2020年に日本での後ろ向きコトート研究が報告されております.
他のDOACと比較して,やはりダビガトランだけが剥離性食道炎のリスク因子となりうることが示唆されております.
Tajima H, et al. Medicine. 2020;99(33):e21681. PMID:
32872038

DIEを疑ったらどうすればいいの?

ダビガトランを服用開始後,PPIなどの胃酸分泌抑制剤を併用しているにもかかわらず改善しない・増悪する胸焼け症状を患者が訴えたら鑑別に挙げる必要があるでしょう.

上部消化管内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)を受けることで簡単に見つけることができるかと(薬剤師ながら)勝手に思っております.

ですが,たとえば在宅医療でそう簡単に胃カメラ検査を実施できない場合,疑い事例として他のDOACに変更するよう医師に処方提案することも考慮しましょう.
(実際,ぼくも過去に一例経験し,処方提案することで改善に至ったことがあります)

その際は併用薬だけではなく,腎機能や,リバーロキサバン(イグザレルト®︎)では肝障害の有無もきちんとチェックしましょう.特に高齢者では知らず知らずと用量オーバーになっている事例もあり得ます.

要点まとめ

ダビガトラン起因性食道炎を知ろう!
死亡例も報告されているため,
BP製剤に則った服薬指導 or 他DOAC変更も考慮!