医療のこと

【論文】シプロヘプタジンに食欲増進効果があるって本当?

シプロヘプタジン,第1世代の抗ヒスタミン薬,古くて懐かしい薬ですね(ひどい

この薬,小児の鼻風邪だけではなく,ときおり高齢患者にも処方・調剤されることがあって,「なぜだろう…?」と思っていたのですが,
部下スタッフの一人で,ベテランのママさんパート薬剤師の先生から,

「食欲増進を目的としてることもあるんですよ」

とご教示いただきました.

シプロヘプタジンに食欲増進効果?

…まじか?!シプロヘプタジンで?!ほんとに効くの?!と変な声が出ちゃいました.

すると流石Twitter(の先生たち),すぐさまお返事いただきました.

さくっと読んでみましょう.

1つ目の論文:システマティックレビュー

Harrison ME, Norris ML, Robinson A, Spettigue W, Morrissey M, Isserlin L.
Use of cyproheptadine to stimulate appetite and body weight gain: A systematic review.
Appetite. 2019;137:62-72. doi:10.1016/j.appet.2019.02.012
PMID: 30825493

論文のPECO

P:正常もしくは低体重の成人および小児(外来・入院ごっちゃまぜ)
E:シプロヘプタジン(cyproheptadine)の投与(1回4mg/1日3回など,小児は体重適正量)
C:?(小児ではプラセボ比較の試験もあり)
O:体重増加
T:32件のRCT,4件の前向きコホート,4件の後ろ向きコホート,4件の症例報告,2件の症例集積研究のシステマティックレビュー(メタ分析はしていない)

結果は?

おおむね患者の体重はそれぞれの研究期間中に増加.有意差もあり.

批判的吟味

一つ一つの論文の質にばらつきあり→それでメタ分析できなかったのかな?
体重増加の効果は期待できるようにも思えるけれど,実臨床で適用しようと思うなら,
システマティックに集めた個々の論文を「個別に読み込む」ほうが良いだろう.

2つ目の論文:小児へのランダム化比較試験

Najib K, Moghtaderi M, Karamizadeh Z, Fallahzadeh E.
Beneficial effect of cyproheptadine on body mass index in undernourished children: a randomized controlled trial.
Iran J Pediatr. 2014;24(6):753-758.
PMID: 26019782

論文のPECO

P:栄養失調をきたしている24〜64ヶ月齢の小児(82人)
E:マルチビタミン+シプロヘプタジン 0.25mg/kg/day(41人→1人 lost to follow-up)
C:マルチビタミン+プラセボシロップ(41人→4人 lost to follow-up)
O:体重,身長,BMI
T:ランダム化比較試験(RCT),4週間の介入

結果は?

BMIのみ群間で有意差あり(?)

批判的吟味

論文のP(患者)が日本にマッチしづらいのでは?
発展途上国での研究であり,この状況にあるような患者(幼児)は日本では稀かと根拠なく思ってしまう(論文前書きに詳細あり)

そもそもなんでシプロヘプタジンに食欲増進効果があるの?

シプロヘプタジン塩酸塩は食欲増進作用を有するヒスタミン拮抗薬である.
本薬の食欲増進作用のメカニズムとしては,食事への欲求が高まることによるエネルギー摂取量の恒常的な増加や,深い睡眠の誘発による成長ホルモン分泌の促進などが考えられている.

BERGEN SS Jr. Am J Dis Child. 1964;108:270-273. PMID: 14168064
Halmi KA, Goldberg SC. Psychopharmacol Bull. 1978;14(2):31-33. PMID:
349601

1964年と1978年の論文!古っ!しかももう本文読めないし!

ほんとにそうなのかな?
とはいえ作用機序がいまだに不明な薬剤なんてザラにあるし,
(有名なのはアセトアミノフェン:カロナール®️)

効果があること ≠ 作用機序が解明されていること

ということは肝に銘じておきたいものです.

実際問題,現場で使っていいの?

シプロヘプタジン,現在は食思不振に対する適用が削除されてしまったようですね.

(ペリアクチン®️ インタビューフォームより抜粋)

…公に使っちゃだめじゃん!

まぁおそらく適当に最もらしい病名つけて処方してるのかなと邪推してしまいます(ひどい

主な有害事象は傾眠で,気をつけなければならない患者は前立腺肥大症の増悪による尿閉でしょうかね.あとは閉塞隅角緑内障患者.
(他にもありますがこれ以上は自分で勉強しましょう)

このあたりに注意しておけば,そこまでダメな薬の使い方じゃあないなと自分は思いました.

今日のまとめ

シプロヘプタジンには確かに食欲増進効果がある
・ただし効果が限定的である
・公には使えなさそう

今日のひとこと日記


相変わらず口は悪いですがほんとうに,本心で思ってます.
教科書や論文を読んだ「だけ」では全くもって不十分で,

・目の前の患者の身体の中で何が起こっているのか?
・それに対して患者自身はどう感じて(解釈して)いるのか?

この2点に対する洞察と想像,かつ妥協点を探すだけの忍耐力と根気や気遣う能力と,

さらに,こういう考え方,学び方,そして学び実践していることを定期的に振り返る習慣がないと,

さらにさらに,そういう習慣を何年も何年も,まさに「数稽古」をこなしていかないと,

薬の臨床的な,現場での使い方を身につけることは不可能でしょう.ここは根拠なく自分はそう思ってます.

 

今日はここまで.
それでは▽