勉強をしなきゃならん職業に身を置いてはや12年ほどが経過.
どれだけ勉強しても薬の臨床的な使い方の知識の更新頻度は上昇する一方です.
ある論文によると,医学知識が現在の量から2倍になるまでのスピードは,今年2020年で約2ヶ月になるかと言われております.
まぁ論文出版当時の未来予想だったので,その真偽のほどはさておき,新しい知見をどんどん吸収しないといけないことは確かですね.
ところで,ときどき若手から
「どれだけ薬について勉強してもそれが “身に付いた” って実感がないんです…」
と相談を受けることがあります.
今日は「勉強したことが自分の血肉になる瞬間」についてお話します.
ゲシュタルトが形成さえたとき,あなたの知識が知恵となる
いきなりわけわからん単語が出てきました.ゲシュタルトという単語に耳馴染みのない人もいらっしゃるかと思いますのでまずはこちらの解説から↓
ゲシュタルトとは?
ドイツ語.Gestalt.もともとは「形」とか「形態」を意味している言葉で,心理学や哲学の業界では「全体的なまとまりの構造」と捉えておけば良いでしょう.
…って言われても分かったような分からないような,
狐につままれたような気分の人もいらっしゃるでしょう.
もう少し言葉を補うと,
「部分と全体とが相互に意味や役割を補いながら体系が形成されていること」
をゲシュタルトが形成されたと言います.
くだけた表現だと,
「あ,なんか知識が一気に繋がったぞ!」
と感じることですね.一種のアハ体験と言っても良いでしょう.
この言葉と意味を僕が今いる医療の世界,特に臨床薬学に当てはめてみると,
個々の薬がその病気の薬物療法の体系の中でどれくらいの位置付けなのか,例えばこの薬は比較的軽症な患者に用いられるとか,反対に重症な場合にのみ用いられるとか,他の薬との併用を気にしなくて良いものなのかとか,もっと言うなら薬の値段がどれくらいなのか,流通がどれくらい安定しているのか,そもそもこの薬を使うような疾患が他の病気と比べてレアなのかコモンなのか…などなど.
要するに,個々の薬の使い方だけではなく,薬物療法全体の中での位置付けもきちんとできるようになった時,その薬に対するゲシュタルトが形成されたと思って良いでしょう.
さらに,それを他の人,同僚でも他職種でも患者さんお客さんでも,誰かにわかりやすく説明ができて初めて,あなたが勉強してきたことが本当に身に付いたと言えます.
ゲシュタルトの形成には時間がかかる.知識も必要
もちろんゲシュタルトの形成は楽な道のりではありません.
かく云う僕も,ここまできちんと説明できるようになるまでに何年も要しました.
初めて働き始めた時は結構苦労しましたね.
ここから先は僕のくだらん苦労話ですが,
大学では現場のことは何一つ触れられず,基礎薬学と臨床薬学の授業の比率が99:1くらいで,
現場に出ても尊敬できる上司もおらず,
憧れの薬剤師が身近には皆無で,
よって臨床的な薬の使い方なんて全部自分で,それもマイナスから勉強し直すしかなかったんですよ.
勉強しても勉強しても,全然身に付いた実感がなく,
質問されても医師や患者さんにうまく説明できず,
「しんどい」「つらい」「勉強しても先がまったく明るく感じない」
そんな毎日できしたね.
けれども社長や近隣医師や看護師の先生方の「ええよ,一人で悩まんでもなんでも聞いていいから,がんばれ」と言った言葉に励まされ,
患者さんもこんな自分に相談してくださる方が多く,
そういった人たちになんとかして恩返ししたいと云う気持ちで勉強していたことは今も記憶に新しいです.
…つまらない話が続きました.
ゲシュタルトの形成は,これはうまく言葉にするのが難しいのですが,やっぱり,
「あ,なんか知識が一気に繋がったぞ!」
と感じる瞬間が訪れます.それがいったいどれくらい勉強すればできるのかは個々人によるのではっきりと明言はできません.元々どれくらい臨床の知識があるのかや,自分の性格だったり,置かれた環境に依るところが大きいでしょう.
ですが,一度ゲシュタルトが形成されたらしめたものです.
これまで覚えたり使いこなすのに苦労した知識がどんどん楽に頭に入ってゆきます.
ほんと,今までの苦労はなんだったんだ…?と途方に感じるくらいです.
諦めずに学び続けよう,アハ体験ができるまで
だから,今勉強が苦しい,もしくは勉強しても勉強しても全然身に付いた感覚がないと思ってくじけそうになっている人がいたら,
確かにそう云う時期は誰でもあります.
しかし,
いつかどこかで,
個々の知識が不思議な繋がりを発揮し,
ゲシュタルトが形成されます.
そのときが来るのを,根拠なく信じて,
勉学に励んでください.
それが,目の前の患者や他職種の役に立つ日が,
きっと訪れるでしょう.
今日はここまで.
それでは▽