今日は,普段ぼくが実践している「患者さん・お客さんからの話を上手に聞き出し,整理する技法」をご紹介いたします.
ポイント①:事実かどうかの確認
事実確認
・「それは事実ですか?それとも未来の予測のことでしょうか?」
・「それは今現在も起きていることでしょうか?」
・「それは過去のことですか?それとも今のことですか?」
など
患者さん・お客さんの身に何が起きているのか,どういったこと(問題含めて)発生しているのか,もしくは患者さんお客さんが実際に行動したこと・言ったことなど,兎にも角にもまずは事実であるかの確認をしましょう.出来事の確認,とみなすこともできます.
時折,患者さんやお客さんは「まだ実行していないこと」や「将来こうなるだろう」みたいなことをあたかも「いま,起きていること」のように話をされる場合があります(そう言った経験,医療者のみなさんありません?).なので,時間軸に注意して,過去に実際起きたこと,行ったことや,今も継続していることを患者さん・お客さんの話から抽出・まとめるようにしましょう.
とはいえ,患者さんやお客さんは誰もがみな時間軸に正確に話ができる訳でもありません.そこは致し方ないことです.ぼくら医療者だって,鍛錬を積むことでようやく上手に説明する・プレゼンすることができるのですから.だから,もし患者さん・お客さんの話にまとまりがなくても,そこで怒ったり不快に思っちゃだめです.特段,一般の人たちを下に見ているわけでは決してないのすが,そう言うものだと思って,丁寧に問い直せばよいです.
ただし注意が必要なのは,あまり杓子定規に↑な問い方をすると,対話会話ではなく一方的な尋問のように感じてしまう患者さん・お客さんもいらっしゃいます.大まかな心構えとして捉えて,実際の現場ではあなたのキャラ・性格に合わせて,言葉をアレンジして声がけをすることを強くオススメします.
ポイント②:相手の解釈(= どう受け取っているのか)
解釈
・起きた出来事(病気であることなど)をあなたはどう感じてますか?
・あなたはこの出来事を◯◯だと思っているんですね?(悲しい・理不尽など)
など
事実確認が終わったら,次はその事実を相手がどう捉えているのか,どう思っているのか,どう感じているのかを聞いてみましょう.
ここでは患者さんの言葉じりやちょっとした仕草,表情もよく観察するとよいです.互換を研ぎ澄まして,言葉だけでなく非言語的な発信も受け取ることが大事です.
別にこれは病気や薬に限らず,ちょっとした雑談や健康相談のときにも活用してみると良いのではないでしょうか.難解なコミュニケーションなどではなく,
あなたは どう 捉えているのですか?
と素直に質問するだけです.それだけでいいんです.
ポイント③:価値観(なぜそう解釈したのか?)
価値観
・自分が大事だと思っていることはどんなことですか?
・それを大事だと思うきっかけなどはありますでしょうか?
・あなたが◯◯を▽▽だと思うのは,□□を大事だと思っているからなのですね
など
患者さん・お客さんの解釈・捉え方について,もう少し踏み込んで見ましょう.
患者さんも自分たちも,物事の受け止めかたは人それぞれです.当たり前ですよね.そのときに,「この人はなぜそういう受け止めかたをするんだろう?」と少し立ち止まって考えてみることもオススメします.価値観の確認,と言っても良いです.
価値観の形成にはいろんな要因がありますが,大まかに区別すると
・ご家族・親族との関係
・仕事関係
・友人などの交友関係
など,その人が歩んできた人生においてのエピソードが価値観形成に寄与することでしょう.
もっとざっくり言うと,「相手が何を大事だと思っているのか」を聞くことです.
と言ったように対話を進めると良いです.まぁこれも文面額面通りにやってしまうと尋問のようになってしまうので,あくまで前後の会話の流れからスムーズにコミュニケーションをとりましょう.
ポイント④:相手の希望(どうなりたいのか?)
希望
・あなたは将来,どんな体調でいたいですか?
・どんな毎日を過ごせたらよいなと思いますか?
・薬がどんな風に変わる(減る, もしくは整理される, 等)と良いですか?
・病気とどうやって向き合いたいと考えていますか?
など
さて,事実→解釈→価値観,ときて,最後は患者さん・お客さんの希望です.
遠い近いを問わず,将来どんな風になりたいのか(健康や生活など),
もしくは自分たちにどんなことをして欲しいのか,
などについて質問を重ねて見ましょう.
もちろん,たいていの患者さん・お客さんは体調がよくなりたい,できれば病気知らずで人生を謳歌したい,と考えていることかと思います.そのあたりはあまり疑わないでおきましょう.誰だって痛かったり苦しかったりは嫌なはずです.
ただし,それとは別に,
「どうしてこの人はしんどいのに,こうすればもっと体調がよくなるはずなのに,なんで自分たち医療者のアドバイスを聞いても行動しないんだろう…?」とか,
「やめた方が良い / 変えた方が良い 習慣があるのに,なぜこの人はこうもこの習慣に固執するんだろう…?」とか,
薬剤師のみなさんなら一度くらいこういう思いをしたことがあるかと思います.
その時に,「こっちの助言を活かさない・行動しない患者・客はだめだ!」
なんて否定するのは簡単です.短絡的でナイーブです.そうするのは勝手ですがそれじゃあ何も改善しません.
そうではなくて,患者さん・お客さんには,そしておそらくこれを読んでいるあなたにも,何か内心,望んでいることがあるはずです.それはいろんな人生を歩んだことで形成された価値観(ポイント③)に基づいて,あなた独自の希望(期待)ができて,その希望に少しでも沿えるように行動しているはずです.
ポイント③で述べた価値観に配慮しつつ,相手がどんな風になりたいのかを聞いてみてください.
そしてその希望をどうやったら叶えられるか,患者さん・お客さんと二人で歩みを進めてゆきましょう.
おまけ:最初から完璧を目指さない.でも最後は納得を目指す
もちろん初回面談からここまで深く相手と話し合うことは至難の技でしょう.ぼくだってほとんど無理です.
けれど,こういう会話の整理の仕方や聞き出し方を身につけておけば,それを忠実に実践しつつ場数をこなして行くことで,一人でも多くの患者さん・お客さんと良い意味で深い関係を築くことができるのではないでしょうか.
当然,最初はうまく行かないものです.失敗します.失敗して当たり前です.失敗しないほうがおかしい.
でもその失敗は成功というか,自分の対話対人能力の向上にどうしても必要なものです.失敗を恐れず,失敗しても凹まず,「失敗するのも自分の良いところ / めげずにまた挑戦すればいいや」くらいに思ってどっしり実践してみましょう.
大丈夫,いずれ,いつの間にか,気づいたら自然とできるようになってます.根拠なく自信を持ってください(天狗になっちゃだめですよ).
それがあなたという薬剤師を育てる最短の道かとぼくは思います.
今日はここまで.
それでは▽
注意:
患者さんと対話をする技法として他にも
・ICE(アイス):Ideas(解釈),Concerns(心配)、Expectations(期待)
・「か き か え」(解釈,期待,感情,影響の頭文字)
という分類もあります.興味のある方は一度こういう言葉でググって見るとよいでしょう.