休むのは権利ではなく義務
しんどくて眠たくてボーッとした頭で
薬を扱う・患者さんお客さんに対応する
そんな資格があなたにはありません
仕事をしていると「あーもう少し頑張りたいなぁ,ちょっとくらい無理してもいいかな」
なんて思ってしまうこともあるかと思います.
主語が大きくなりますが,ぼくら日本人は変なところで無理して働きすぎです.
本当は休んで欲しい,休むべき時でも「いや,まだ頑張れる!」と自分に鞭を打ってしまう.そんな習慣が日本人には染み付いているのやもしれません.最近の若い子にはあまりそういう傾向がないのやもしれませんが(良いことですよ).
休むのは権利ではなく義務である
最初にはっきりと言って申し上げると,休むのは義務です.権利じゃない.
休んでいい権利
ではなく
休まなければならない義務
なんです.
なぜ権利ではなく義務なのか,それは,権利と規程してしまうと,どうしても,「みんなが頑張っているのに自分だけ休むなんて気が引ける」とか,「自分だけサボっていると思われたくない」とか,何かしら理由をつけて働き続けてしまうからです.
これは同調圧力の最たるものであり,また「自分以外の誰かが楽をすることを許さない」という,こちらも非常に稚拙で,他人に不寛容な悪しき空気かとぼくは強く思います.
何はともあれ,しっかり働く,働き続けるには定期的に休むことが必須です.
これはもうエビデンスがあるとかないかとそういうのではなく,生き物は休まないとリフレッシュして元気にならない / 回復しないということです.どれだけ個人差があろうが.
まずは休むのは権利ではなく義務であるという意識改革から始めましょう.全てはそこからです.
睡眠不足な状態 ≒ 酩酊状態
これは医師に関するエビデンスなのですが,
当直に相当する,28時間の断眠(眠れない状態が持続すること)は,血中アルコール濃度0.05%の飲酒に匹敵する
Arnedt JT, Owens J, Crouch M, Stahl J, Carskadon MA.
Neurobehavioral performance of residents after heavy night call vs after alcohol ingestion.
JAMA. 2005;294(9):1025-33.
なのだそうです.
ちなみに酒気帯び運転の摘発基準は血中アルコール濃度で0.03%です.
(実際には血中ではなく呼気中のアルコールを測定するので採血はそこまでやらないとは思いますが)
ぼくら薬剤師や,一般の方々ならば流石に24時間以上眠れない事態になることはそうそうありえないだろうとは思います.なので,このデータを一般化することは少し難しいのかもしれませんが,
「休まず眠らず仕事を続けること ≒ 酒を飲みながら仕事をすること」
だとざっくり思っていただいてもよいでしょう.
そんな状態で良い仕事なんてできるわけがありません.
仕事のパフォーマンスや質が上がるわけがありません.
飲酒運転もダメですが,
休まず眠らず働くのもダメなんですよ.
だから,休むのは権利ではなく義務なんです.
ボーッとした頭で顧客に関わる資格があなたにはありません
最後に,薬剤師のぼくが睡眠不足,過労でやらかした重大ミスについて告白します.
もう時効だと思うので白状しますと,ぼくは以前,とある抗がん剤の散剤(粉薬)を10倍量で患者に出してしまいました.
幸い,服用寸前のところで止めることができたので患者さんに健康被害は起こらなかったのですが,今思うと,
もし本当に服用してしまっていたら,
確実に患者さんを命の危険に晒してしまうことになり,
薬剤師として訴訟され,
人生,完全終了.
となっていたでしょう.
今思い出してもゾッとします.漫画の一コマのように.
なぜこんな大エラーをしてしまったのかと言うと,当時のぼくと職場の全同僚がみな,
過労かつ睡眠不足だったからなんです.休めなかったんです.
当時の職場は1日あたり200〜250人くらいの患者さんが来局され,処方の内容も患者さんの持病もなかなかに重症な方々が多く,扱っている薬も非常に難しいものばかりでした.
しかも,当時はまだ電子ではなく紙の薬歴(カルテのようなもの)だったんですよね.
それを,時代の流れに追いつこうと,電子薬歴を導入したのですが,
紙の薬歴から電子薬歴への切り替え時の最大の問題は,「患者情報の引継ぎ」だったんです.
もう住所や連絡先といった基本情報から,併用薬,並存疾患,アレルギー歴や副作用歴,生活歴,社会歴など,あらゆる「手書き情報」を毎日毎日,パソコンに打ち込む毎日でした.
ただでさえ日常業務に忙殺されていた上での引継ぎ入力作業,
月の残業が60〜80時間に達することが数ヶ月ほど続きましたね.
流石に過労死ラインすれすれ,もう毎日疲労困憊です.
そんな中で起こしてしまった調剤過誤(医療ミス)だったんです.
猛省して,そしてやっと気づいたというか,骨身に染みたんです.
休むのは権利ではなくて義務.
しんどくて眠たくてボーッとした頭で,
薬を取り扱う・患者さんやお客さんに対応する?
そんな資格が,自分にはない.
ということにです.
「こんな無理をしていたら,俺はいつか患者を死なせてしまう」
と本気で思いました.
それ以来,どんなに忙しくても,やることが山積みだとしても,
その日のうちにやらなければならない最低限のことは何かを見極めて,
自分の限界から逆算してどれくらいの業務をこなすべきかを真剣に考えるようになりました.
手痛い失敗だったのですが,その失敗のおかげで大事なことに気付けたとぼくは思ってます.
この記事を読んで,
「休むのは権利ではなく義務である」
と思ってくださる人が一人でも多くなることを願ってやみません.
今日はここまで.
それでは▽